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三月歌舞伎鑑賞教室 『葛の葉』 (国立劇場)

2008-03-10 23:59:59 | かぶき讃(劇評)
最初は行く気がなかったのですが、劇評がよいのでついつい…。というわけで、感想です。

『葛の葉』という芝居に関しては、以前坂田藤十郎の舞台に関して書いたことで言い尽くしているのですが、この芝居が歌舞伎鑑賞教室向きなのかは、ちょっと疑問を感じなくもない。

そもそも、文楽で最初に人形遣いが三人になった記念すべき狂言『芦屋道満大内鑑』の一部だけあって、最初の早替りと最後の局書きをのぞけば、これはまさに渋い義太夫狂言。歌舞伎初心者には、若干分かりにくい部分もあり、イヤホンガイド必携の演目だとわたしには思えるのですが、どうなのでしょうか?国立劇場さん!

さて、本題に入って、今回の『葛の葉』。

話は、許嫁(葛の葉姫)と生き別れてしまった男(阿倍安名)が、命を助けた狐の化けた偽の許嫁と結婚し子供(後の安倍晴明)をもうける。そこへ本物の許嫁が現れ、狐は子供と夫に別れを告げ、森の中へ去って行く、というもの。(かなり端折っていますので、あしからず。)

芝雀の葛の葉役に入る前に、種太郎の安倍保名についてひとこといいたいのですが、歌舞伎舞踊「保名」の主人公としても知られるこの役を、高校生に演じさせるキャスティングに大いに疑問あり。中村翫雀なんかが何度か演じているけれども、そもそもなかなか難しい役だと思うんですよね。

しかも、先月まで幸四郎相手に忠臣蔵七段目のお軽を演じている芝雀が相手役ですから、位負けは致し方なしでしょう。でも、誠実に今の自分の力を出し切った種太郎の舞台にちょっと感心はしました(口跡といい、仕草といい。)。将来に期待したいなあ~。随分先のことでしょうけど。

で、芝雀ですが、姫役と所帯じみた女房役のどちらも違和感がないという意味で、この役にちょうどいい時期なんだと思いました。

というのも、女房役がよいと姫役はトウが立った感じがするし、赤姫が似合いすぎると、葛の葉の母親という性根が見えにくくなる。

以前感動した坂田藤十郎(当時、中村鴈治郎)の舞台は、子供への情愛の深さという点で、「先代萩」の政岡に通じるものがあったけど、今回の芝雀は藤十郎ほどには情が濃すぎない、普通の小さい子供の母親としての葛の葉という感じではありました。

ただ、舞台半廻りした後の狐の正体を現すあたり、意外と身のこなしが重いのと、この芝居の見せ場、障子に歌を筆で書く「曲書き」の字がもうひとつではありましたね。

(もっとも、この間の魁春も字は下手だったけど、なんだかさらさらっと上手そうだったのは、藤十郎ぐらいですか?武智鉄二に月謝を払ってもらって書家に習ったってわけでもないでしょうけれど。)

最後の花道、すっぽんからの出と引っ込みは、たまたま花道近くの席だったというのもあるけど、なかなか映える身のこなしで、わたしには見ごたえがありました。

というわけで、この芝居、芝雀の葛の葉で、渋い脇役で固めた歌舞伎座の本舞台を見てみたいですね。

ところで、以前文楽の『葛の葉』を見たことがあるのですが、ディテールの記憶が曖昧で…。

確か、早替りとか曲書きみたいなギミック的な見せ場中心ではなかったと思いましたが、人形ならではのファンタジックな雰囲気があり、文楽の方が子供向けかもしれないとは思いました。といっても、山城少掾の重厚なCDも比較的入手が楽ですけれど。

それと最後に、歌舞伎鑑賞教室おなじみの初心者向け解説についてひとこと。

どうも、受けを狙いすぎなんじゃないですかね?宗之助の司会はうまかったんだけど、出雲阿国が出てくるとか、ちょっと半端に懲りすぎで、単純に歌舞伎を知りたいビギナー向けというというより、お子様向けという印象。

平日はああいう方がいいのかもしれないけれど、子供だって、大人が考えるほど子供でもないんですよね~。

わたしは鑑賞教室も、路線考えた方がいいと思いました。

以上、長くなりましたが、とりあえずの感想でした!

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