では、早速先日の感想っ。
①竜馬がゆく
秀山祭の連続シリーズ「竜馬がゆく」の完結編。
美術さん大忙しの凝った演出。なかなかの力作だったのですが、少し情報量詰め込みすぎでは?
竜馬の暗殺に、貧しい幕末のカップルの挿話を絡めて、幕末という価値揺籃期を描こうという志は立派なのだけど、なにせ1時間ほどの芝居ですからね~。
染五郎の竜馬は、青臭い、青春している竜馬像で今回も悪くない。そういう意味では、夏目漱石の「坊ちゃん」みたいな竜馬ですね。(センチメンタルで泣き虫な竜馬像?)
ただ、本当に坂本竜馬ってこういうひとだったのかという疑問は正直ありますけど…。だって、幕末に活躍した人たちというのは、本当に命のやり取りをしていたわけで、もっとギラギラした人間たちだったんじゃないのか?そんな気もするのですが、こういう竜馬解釈はこの芝居だけではないからなぁ…。
役者の方だと、乙女という名の女中を演じた中村芝のぶが好演。このひと、こういう庶民的な役もできるんだと感心しました。(普段は御殿女中みたいなイメージがあったから。)
また、演出的に、松緑の中岡慎太郎と竜馬の議論の応酬は少し理屈っぽくて、芝居向きではない。幕末好きな人でない限りは、このあたりの「真摯な議論」は芝居として退屈だったのではないかと思いましたね。(周りの観客の様子を見てそう思った。)
それと、このシリーズの前回に登場した市川亀治郎のおりょうはとても面白いキャラだったので、今回出てこなかったのはとても残念でした。
というわけで、来年はどうするのかな?
②時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)
「待ってました!」という感じの吉右衛門の大舞台。
明智光秀を英雄的に描いた鶴屋南北原作の舞台ですが、もうひとつ深い感銘まではいかなかったなあ~。
「饗応の場」の御簾内からの台詞とともに登場した吉右衛門=武智光秀はスケールが大きくて立派だったし、富十郎=小田春永は元気一杯で、花道七三からの台詞なんて、声がよく通る、通る!
でも、武智光秀VS小田春永のやり取りは「仮名手本中心蔵」の塩谷判官VS高師直に似て、ストレス係数がぐぐっと高まらないと、最後の謀反のカタルシスまでには届かない。
わたしの愛する名優・吉右衛門&富十郎の舞台は、台詞こそ立派だったけど、エモーショナルな舞台にまではなってなかったような…印象ではありますね。
たとえば、光秀が森蘭丸から鉄扇を喰らう場面、春永から妻の切り髪を渡されるくだりの屈辱感…。吉右衛門の光秀だと、こうした屈辱場面もやり過ごしていけそうな雰囲気に見えたりも…。つまり、吉右衛門の光秀は結構「大人」にみえるんですよね。
脇役では、中村吉之丞の園生の局が、その痩せた着物の着こなしからして古風でよい感じ。こういう老女形って、歌舞伎にしかない渋味ですよね。
③お祭り
若手中堅に大ベテランの芝翫がからんだ舞踊。
最近、ベテラン役者たちが舞台に姿を現さなくなったなか、芝翫は元気だなあ~なんて、簡単な感想です。
でも、ちょっと前までは、雀右衛門と芝翫で芸風の違いを楽しめてよかったんだけどなぁ~。
まだまだ、大きな役をやってもらいたいです、このひとには。
④河内山(こうちやま)
お数寄屋坊主の無頼漢・河内山宗俊(こうちやまそうしゅん)が大名を騙してやっつけるという、河竹黙阿弥原作の世話物狂言。
今回は物語の発端の上州屋のくだりを割愛して、いきなり河内山宗俊が大名屋敷に乗り込むくだりから。
いつもだと、幸四郎の河内山は妙に下卑た悪党に見えてしまって、薄汚い感じイメージしか残らず、大物の風格のある吉右衛門、この場面が妙に小気味よい仁左衛門に比べて、わたしはどうも好きになれなかった。(あと、宇宙人的な團十郎もいましたね!)
でも、この場面がなかったことで、かえって老獪な幸四郎の河内山というイメージになったんじゃないですか?
非常に抑えた感じの台詞回しは、先代勘三郎の落ちついた雰囲気を感じたし、わたしには初代吉右衛門の台詞回しさえ連想させた。
初代吉右衛門の河内山のテープを聞くと、非常に押さえた台詞なのに、温かみがあって上品なユーモアさえ漂うんですよね。
今までだと、上州屋の場面の続きで、とかく表現過多だった幸四郎の河内山だけど、黙っていても表現力のある人だから、これくらい抑えていて充分表情がある。
また、中村梅玉の松江出雲守、市川段四郎の高木小左衛門と、相手役も台詞の通る面々で、久々によい黙阿弥劇だったなあ~と思いました!
そして、最後の台詞「ば~かめ!」!!
ここまで押さえ気味だったが故に、最後の幸四郎の声がよりよく響いた!
というわけで、このブログで幸四郎をコレだけ褒めたのは「盟三五大切」の源五兵衛以来では?
毎回、コレくらいの感じで、へんに観客に媚びなければよい役者ですよ、高麗屋!
というわけで、予想外に感動した今回の河内山でした!
★ ★ ★
<配役>
昼の部
一、竜馬がゆく(りょうまがゆく)
最後の一日
坂本竜馬 染五郎
近江屋女房すみ 高麗蔵
桃助 男女蔵
近江屋新助 猿 弥
伊東甲子太郎 錦 吾
淡海槐堂 竹三郎
後藤象二郎 門之助
中岡慎太郎 松 緑
二、秀山を偲ぶ所縁の狂言
時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)
饗応の場
本能寺馬盥の場
愛宕山連歌の場
武智光秀 吉右衛門
四王天但馬守 幸四郎
安田作兵衛 歌 六
桔梗 芝 雀
山口玄蕃 歌 昇
森蘭丸 錦之助
丹羽五郎 男女蔵
三村次郎 亀 寿
森力丸 種太郎
鈴木草太 宗之助
園生の局 吉之丞
長尾弥太郎 桂 三
浅山多惣 由次郎
連歌師丈巴 家 橘
矢代條介 友右衛門
皐月 魁 春
小田春永 富十郎
三、名残惜木挽の賑
お祭り(おまつり)
芸者 芝 翫
鳶頭 歌 昇
鳶頭 錦之助
鳶頭 染五郎
鳶頭 松 緑
鳶頭 松 江
手古舞 孝太郎
手古舞 芝 雀
四、天衣紛上野初花
河内山(こうちやま)
松江邸広間より玄関先まで
河内山宗俊 幸四郎
高木小左衛門 段四郎
宮崎数馬 門之助
近習大橋伊織 松 江
同 黒沢要 男女蔵
同 米村伴吾 亀 寿
同 堀江新六 種太郎
同 川添運平 隼 人
同 間宮帯刀 宗之助
北村大膳 錦 吾
腰元浪路 高麗蔵
松江出雲守 梅 玉
①竜馬がゆく
秀山祭の連続シリーズ「竜馬がゆく」の完結編。
美術さん大忙しの凝った演出。なかなかの力作だったのですが、少し情報量詰め込みすぎでは?
竜馬の暗殺に、貧しい幕末のカップルの挿話を絡めて、幕末という価値揺籃期を描こうという志は立派なのだけど、なにせ1時間ほどの芝居ですからね~。
染五郎の竜馬は、青臭い、青春している竜馬像で今回も悪くない。そういう意味では、夏目漱石の「坊ちゃん」みたいな竜馬ですね。(センチメンタルで泣き虫な竜馬像?)
ただ、本当に坂本竜馬ってこういうひとだったのかという疑問は正直ありますけど…。だって、幕末に活躍した人たちというのは、本当に命のやり取りをしていたわけで、もっとギラギラした人間たちだったんじゃないのか?そんな気もするのですが、こういう竜馬解釈はこの芝居だけではないからなぁ…。
役者の方だと、乙女という名の女中を演じた中村芝のぶが好演。このひと、こういう庶民的な役もできるんだと感心しました。(普段は御殿女中みたいなイメージがあったから。)
また、演出的に、松緑の中岡慎太郎と竜馬の議論の応酬は少し理屈っぽくて、芝居向きではない。幕末好きな人でない限りは、このあたりの「真摯な議論」は芝居として退屈だったのではないかと思いましたね。(周りの観客の様子を見てそう思った。)
それと、このシリーズの前回に登場した市川亀治郎のおりょうはとても面白いキャラだったので、今回出てこなかったのはとても残念でした。
というわけで、来年はどうするのかな?
②時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)
「待ってました!」という感じの吉右衛門の大舞台。
明智光秀を英雄的に描いた鶴屋南北原作の舞台ですが、もうひとつ深い感銘まではいかなかったなあ~。
「饗応の場」の御簾内からの台詞とともに登場した吉右衛門=武智光秀はスケールが大きくて立派だったし、富十郎=小田春永は元気一杯で、花道七三からの台詞なんて、声がよく通る、通る!
でも、武智光秀VS小田春永のやり取りは「仮名手本中心蔵」の塩谷判官VS高師直に似て、ストレス係数がぐぐっと高まらないと、最後の謀反のカタルシスまでには届かない。
わたしの愛する名優・吉右衛門&富十郎の舞台は、台詞こそ立派だったけど、エモーショナルな舞台にまではなってなかったような…印象ではありますね。
たとえば、光秀が森蘭丸から鉄扇を喰らう場面、春永から妻の切り髪を渡されるくだりの屈辱感…。吉右衛門の光秀だと、こうした屈辱場面もやり過ごしていけそうな雰囲気に見えたりも…。つまり、吉右衛門の光秀は結構「大人」にみえるんですよね。
脇役では、中村吉之丞の園生の局が、その痩せた着物の着こなしからして古風でよい感じ。こういう老女形って、歌舞伎にしかない渋味ですよね。
③お祭り
若手中堅に大ベテランの芝翫がからんだ舞踊。
最近、ベテラン役者たちが舞台に姿を現さなくなったなか、芝翫は元気だなあ~なんて、簡単な感想です。
でも、ちょっと前までは、雀右衛門と芝翫で芸風の違いを楽しめてよかったんだけどなぁ~。
まだまだ、大きな役をやってもらいたいです、このひとには。
④河内山(こうちやま)
お数寄屋坊主の無頼漢・河内山宗俊(こうちやまそうしゅん)が大名を騙してやっつけるという、河竹黙阿弥原作の世話物狂言。
今回は物語の発端の上州屋のくだりを割愛して、いきなり河内山宗俊が大名屋敷に乗り込むくだりから。
いつもだと、幸四郎の河内山は妙に下卑た悪党に見えてしまって、薄汚い感じイメージしか残らず、大物の風格のある吉右衛門、この場面が妙に小気味よい仁左衛門に比べて、わたしはどうも好きになれなかった。(あと、宇宙人的な團十郎もいましたね!)
でも、この場面がなかったことで、かえって老獪な幸四郎の河内山というイメージになったんじゃないですか?
非常に抑えた感じの台詞回しは、先代勘三郎の落ちついた雰囲気を感じたし、わたしには初代吉右衛門の台詞回しさえ連想させた。
初代吉右衛門の河内山のテープを聞くと、非常に押さえた台詞なのに、温かみがあって上品なユーモアさえ漂うんですよね。
今までだと、上州屋の場面の続きで、とかく表現過多だった幸四郎の河内山だけど、黙っていても表現力のある人だから、これくらい抑えていて充分表情がある。
また、中村梅玉の松江出雲守、市川段四郎の高木小左衛門と、相手役も台詞の通る面々で、久々によい黙阿弥劇だったなあ~と思いました!
そして、最後の台詞「ば~かめ!」!!
ここまで押さえ気味だったが故に、最後の幸四郎の声がよりよく響いた!
というわけで、このブログで幸四郎をコレだけ褒めたのは「盟三五大切」の源五兵衛以来では?
毎回、コレくらいの感じで、へんに観客に媚びなければよい役者ですよ、高麗屋!
というわけで、予想外に感動した今回の河内山でした!
★ ★ ★
<配役>
昼の部
一、竜馬がゆく(りょうまがゆく)
最後の一日
坂本竜馬 染五郎
近江屋女房すみ 高麗蔵
桃助 男女蔵
近江屋新助 猿 弥
伊東甲子太郎 錦 吾
淡海槐堂 竹三郎
後藤象二郎 門之助
中岡慎太郎 松 緑
二、秀山を偲ぶ所縁の狂言
時今也桔梗旗揚(ときはいまききょうのはたあげ)
饗応の場
本能寺馬盥の場
愛宕山連歌の場
武智光秀 吉右衛門
四王天但馬守 幸四郎
安田作兵衛 歌 六
桔梗 芝 雀
山口玄蕃 歌 昇
森蘭丸 錦之助
丹羽五郎 男女蔵
三村次郎 亀 寿
森力丸 種太郎
鈴木草太 宗之助
園生の局 吉之丞
長尾弥太郎 桂 三
浅山多惣 由次郎
連歌師丈巴 家 橘
矢代條介 友右衛門
皐月 魁 春
小田春永 富十郎
三、名残惜木挽の賑
お祭り(おまつり)
芸者 芝 翫
鳶頭 歌 昇
鳶頭 錦之助
鳶頭 染五郎
鳶頭 松 緑
鳶頭 松 江
手古舞 孝太郎
手古舞 芝 雀
四、天衣紛上野初花
河内山(こうちやま)
松江邸広間より玄関先まで
河内山宗俊 幸四郎
高木小左衛門 段四郎
宮崎数馬 門之助
近習大橋伊織 松 江
同 黒沢要 男女蔵
同 米村伴吾 亀 寿
同 堀江新六 種太郎
同 川添運平 隼 人
同 間宮帯刀 宗之助
北村大膳 錦 吾
腰元浪路 高麗蔵
松江出雲守 梅 玉
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます