
毎年なぜか十二月にやっている国立劇場の文楽鑑賞教室。若手中心だったりするので、例年行こうかどうか迷うんだけど、『新版歌祭文~野崎村の段』が観たいばっかりに行ってみました!
①『鬼一法眼三略絵巻~義経と弁慶』
『鬼一法眼』と聞いて、入門にしては随分難しいものをやるんだななんて思ったわたしは「菊畑の段」のことしか頭になかったわけですが、何のことはない、今回は五条橋の義経と弁慶の出会いというチャンバラ舞踊の段でした。個人的には、これはなくてもよかったなって感じがしましたね。平日は中高生相手にやっているからこういうわかりやすそうなモノをやったんだろうけど、いまどき子供でも喜ばないでしょ、きっと。中高生だったら、いっそのこと近松物の心中の場面だけダイジェストでやってあげた方が喜んだんじゃないかな?教育上よろしくないかもしれないけど…。
②解説「文楽の楽しみ」
わたしが観た日はAプロだったので、義太夫の解説は豊竹新大夫、野澤喜一朗、人形は吉田勘市でしたが、結構楽しめた。
まず、豊竹新大夫&野澤喜一朗がなかなかとぼけた味があってよかったし、三味線が「はっ!」と声を掛けるときは、義太夫が息を吸っているタイミングだということを、失敗例を見せることで示してくれたのには感心した。なるほど、こういうことかって!また、義太夫の太棹三味線に張ってある皮は犬でアジア方面からの輸入物、猫の皮も使っていると聞いて、ポール・マッカートニーの顔を思い出したのはわたしだけかな?
それと、人形の方は女形の人形の解説がよかったですね。というか、普段から女形の人形ばかり見ているせいなんだけど…。要するに、立役(男)の人形と違って、仕掛けで顔の変化を出せない仕組みだから、体のこなしが重要になるんだってあたりが。
③『新版歌祭文~野崎村の段』
待ってました!って感じで結構好きな芝居。歌舞伎でも何度か見てるし、文楽でも見た記憶がある。早い話が、田舎娘のお光とお金持ちの娘・お染という二人に、色男の久松が絡むという三角関係の芝居。失恋しちゃう田舎娘のお光に肩入れしちゃうのは、少女マンガ好きのわたしだけではないと思うんだけど…。
今回、ヒロインのお光は、Aプロ・桐竹紋寿、Bプロ・桐竹勘十郎だったんだけど、女形といえば紋寿の方が観たくないですか?というわけで、わたしはAプロ目当てでチケットを取りました。
文楽の女形といえば、繊細なミニマリズムの吉田蓑助、重厚な貫禄の吉田文雀、ダイナミックな桐竹紋寿という風にわたしは勝手に分類してるんだけど、蓑助は世話物系の繊細な仕草がいいし、文雀はちょっと年増の役の落ち着いた感じが好きだし、紋寿は情念系の役なんかよかったなあ~。
というのも、以前見た『神霊矢口渡』のお舟という、まさに情念系の役の人形を紋寿が遣ったときが大変にインパクトがあって、「これは(椎名)林檎ちゃんに見せたい!」って思ったからなんだけど、まあ、そんなわたしの勝手な思い込みはどうでもいいか…。
この芝居、「野崎村」に関しては、吉田蓑助の『文楽の女』という本がとても参考になるんだけど、ざっくり言ってしまえば、「着る物で階層がはっきり別れていた時代の芝居」で、着物というファッションからかなり読み解ける芝居って感じはする。
まず、文楽でも歌舞伎でも「田舎娘」といえば緑色の着物と決まっていて、これがなかなか可愛かったりするんだけど、一方、昔の都会育ちの娘の場合、襟袈裟という、髪の油で着物を汚さないようにする前掛けを後ろに掛けたような袈裟を着けているということは、先述の『文楽の女』という本ではじめて知った。今回注意深くお染の人形の首筋から背中に掛けてを見ていたら、あった、あった襟袈裟!これまた、なかなか可愛いファッション。そして、帯の位置がやっぱり違う。田舎娘はやや下気味、都会育ちだとやや上に帯がある。そして、最後は婚礼の支度をしたお光の綿帽子を取ると、髪を切って尼の姿に(尼っていっても瀬戸内寂聴みたいな坊主頭じゃないよ!)って展開まで含めて、ある種のコスチュームプレイ的な芝居ですよね。
紋寿のお光は、歌舞伎で中村芝翫がやったときのような田舎娘というノリを強調したものでもなかったし、市川亀治郎の「現代的でコケティッシュだけど、野暮な女の子」って感じでもなく、なかなか派手で情熱的な恋をしてる若い女というイメージ。お染とのやり取りは、「女の子」の嫉妬というより、「女」のそれって感じがする大きく華麗な雰囲気だとわたしは思った。つまり、歌舞伎でみるより、情念を感じたってことかな…。
歌舞伎だとこの芝居はお光が立女形でお染は若手のやる役なのだけど、文楽ではこの二人の娘役は同格。見せ場でいえば、お染の方がおいしい役かもしれないくらいなのだけど、今回のAプロのお染は吉田和生。しっとりとしたお嬢さんらしいお染だと思ったけど、たまたまわたしの前の席の人の座高が高くて(!)、肝心の久松とのやり取りに集中できず、ちょっと個人的に判断保留。ただ、我が家に若い頃の蓑助がお染をやったときのビデオがあって(因みに義太夫は越路大夫)、これがなんとも華麗で見とれてしまうんですよね~、モノクロだけど。
ところで、今回はお光の盲目の母親は出てこなかったけど、この役が出てくると一層お光がかわいそうになってくる。特に髪の毛に関するやり取りなんかいいんですよね。来年は完演をみたいな~。
今回のAプロの義太夫は、前半・豊竹英大夫で後半・竹本三輪大夫。前半のお光の華やかさに比して、英大夫の声が渋すぎるなあなんて思ったのだけど、父・久作あたりの老け役はいい感じ。一方、後半の三輪大夫は声が艶っぽく、久松、お染、お光といったあたりはいいんだけど、後半の肝、久作がもうひとつ情が浅いという気がして…。なかなか大夫の組み合わせって難しいところ。
さて、この芝居といえば、歌舞伎と文楽で終わり方が違う。話としては、籠に久松が乗り、舟にお染とその母親が乗って野崎村を去っていくということなのだけど、歌舞伎の方では三味線の、いわゆる「野崎の送り」が終わった後に、久松とお染を見送ったお光が、土手の上で父親の久作にすがりついて泣くという演出。以前、歌舞伎の感想でも書いた通り、わたしはどうもこの水っぽい演出が好きではない。センチメンタル過ぎるでしょ、なんとなく。一方、文楽の方では、お光が久松とお染を見送ったあと、舞台は併走する籠と舟の移動の舞台に変わって、三味線の「野崎の送り」を聞かせて終わる。
今回の公演では、舟は屋形船みたいな形のものだったので、舟に乗ったお染とその母親の芝居はなく、船頭のおどけた芝居のみだったのは残念だったけど、やっぱり文楽の終わり方の方が、道中気分やローカルカラーがあるし、ウェット過ぎなくて洗練されている。それに、最後にお光が大泣きするという演出だと、「少女性」というのか「幼女性」ばかりが強調されて、芝居がガキっぽくなると思う。
ところで、この「野崎の送り」という三味線の節は名曲でとっても風情がある。落語家・八代目桂文楽の出囃子「野崎」は、この「野崎の送り」を出囃子風にアレンジしたものなんだけど、桂文楽ってこういうところでもやっぱり艶っぽい噺家だなって気がしますね、まったくの蛇足なんだけど。
というわけで、久々の文楽の感想でした!
歌舞伎版『野崎村』の感想!
PS:歌舞伎の竹本葵大夫のHPに、今年やった「野崎村」に関する詳しい話が載っています。興味のある方はどうぞ、御参考まで!
・竹本葵大夫HP(『野崎村』)
①『鬼一法眼三略絵巻~義経と弁慶』
『鬼一法眼』と聞いて、入門にしては随分難しいものをやるんだななんて思ったわたしは「菊畑の段」のことしか頭になかったわけですが、何のことはない、今回は五条橋の義経と弁慶の出会いというチャンバラ舞踊の段でした。個人的には、これはなくてもよかったなって感じがしましたね。平日は中高生相手にやっているからこういうわかりやすそうなモノをやったんだろうけど、いまどき子供でも喜ばないでしょ、きっと。中高生だったら、いっそのこと近松物の心中の場面だけダイジェストでやってあげた方が喜んだんじゃないかな?教育上よろしくないかもしれないけど…。
②解説「文楽の楽しみ」
わたしが観た日はAプロだったので、義太夫の解説は豊竹新大夫、野澤喜一朗、人形は吉田勘市でしたが、結構楽しめた。
まず、豊竹新大夫&野澤喜一朗がなかなかとぼけた味があってよかったし、三味線が「はっ!」と声を掛けるときは、義太夫が息を吸っているタイミングだということを、失敗例を見せることで示してくれたのには感心した。なるほど、こういうことかって!また、義太夫の太棹三味線に張ってある皮は犬でアジア方面からの輸入物、猫の皮も使っていると聞いて、ポール・マッカートニーの顔を思い出したのはわたしだけかな?
それと、人形の方は女形の人形の解説がよかったですね。というか、普段から女形の人形ばかり見ているせいなんだけど…。要するに、立役(男)の人形と違って、仕掛けで顔の変化を出せない仕組みだから、体のこなしが重要になるんだってあたりが。
③『新版歌祭文~野崎村の段』
待ってました!って感じで結構好きな芝居。歌舞伎でも何度か見てるし、文楽でも見た記憶がある。早い話が、田舎娘のお光とお金持ちの娘・お染という二人に、色男の久松が絡むという三角関係の芝居。失恋しちゃう田舎娘のお光に肩入れしちゃうのは、少女マンガ好きのわたしだけではないと思うんだけど…。
今回、ヒロインのお光は、Aプロ・桐竹紋寿、Bプロ・桐竹勘十郎だったんだけど、女形といえば紋寿の方が観たくないですか?というわけで、わたしはAプロ目当てでチケットを取りました。
文楽の女形といえば、繊細なミニマリズムの吉田蓑助、重厚な貫禄の吉田文雀、ダイナミックな桐竹紋寿という風にわたしは勝手に分類してるんだけど、蓑助は世話物系の繊細な仕草がいいし、文雀はちょっと年増の役の落ち着いた感じが好きだし、紋寿は情念系の役なんかよかったなあ~。
というのも、以前見た『神霊矢口渡』のお舟という、まさに情念系の役の人形を紋寿が遣ったときが大変にインパクトがあって、「これは(椎名)林檎ちゃんに見せたい!」って思ったからなんだけど、まあ、そんなわたしの勝手な思い込みはどうでもいいか…。
この芝居、「野崎村」に関しては、吉田蓑助の『文楽の女』という本がとても参考になるんだけど、ざっくり言ってしまえば、「着る物で階層がはっきり別れていた時代の芝居」で、着物というファッションからかなり読み解ける芝居って感じはする。
まず、文楽でも歌舞伎でも「田舎娘」といえば緑色の着物と決まっていて、これがなかなか可愛かったりするんだけど、一方、昔の都会育ちの娘の場合、襟袈裟という、髪の油で着物を汚さないようにする前掛けを後ろに掛けたような袈裟を着けているということは、先述の『文楽の女』という本ではじめて知った。今回注意深くお染の人形の首筋から背中に掛けてを見ていたら、あった、あった襟袈裟!これまた、なかなか可愛いファッション。そして、帯の位置がやっぱり違う。田舎娘はやや下気味、都会育ちだとやや上に帯がある。そして、最後は婚礼の支度をしたお光の綿帽子を取ると、髪を切って尼の姿に(尼っていっても瀬戸内寂聴みたいな坊主頭じゃないよ!)って展開まで含めて、ある種のコスチュームプレイ的な芝居ですよね。
紋寿のお光は、歌舞伎で中村芝翫がやったときのような田舎娘というノリを強調したものでもなかったし、市川亀治郎の「現代的でコケティッシュだけど、野暮な女の子」って感じでもなく、なかなか派手で情熱的な恋をしてる若い女というイメージ。お染とのやり取りは、「女の子」の嫉妬というより、「女」のそれって感じがする大きく華麗な雰囲気だとわたしは思った。つまり、歌舞伎でみるより、情念を感じたってことかな…。
歌舞伎だとこの芝居はお光が立女形でお染は若手のやる役なのだけど、文楽ではこの二人の娘役は同格。見せ場でいえば、お染の方がおいしい役かもしれないくらいなのだけど、今回のAプロのお染は吉田和生。しっとりとしたお嬢さんらしいお染だと思ったけど、たまたまわたしの前の席の人の座高が高くて(!)、肝心の久松とのやり取りに集中できず、ちょっと個人的に判断保留。ただ、我が家に若い頃の蓑助がお染をやったときのビデオがあって(因みに義太夫は越路大夫)、これがなんとも華麗で見とれてしまうんですよね~、モノクロだけど。
ところで、今回はお光の盲目の母親は出てこなかったけど、この役が出てくると一層お光がかわいそうになってくる。特に髪の毛に関するやり取りなんかいいんですよね。来年は完演をみたいな~。
今回のAプロの義太夫は、前半・豊竹英大夫で後半・竹本三輪大夫。前半のお光の華やかさに比して、英大夫の声が渋すぎるなあなんて思ったのだけど、父・久作あたりの老け役はいい感じ。一方、後半の三輪大夫は声が艶っぽく、久松、お染、お光といったあたりはいいんだけど、後半の肝、久作がもうひとつ情が浅いという気がして…。なかなか大夫の組み合わせって難しいところ。
さて、この芝居といえば、歌舞伎と文楽で終わり方が違う。話としては、籠に久松が乗り、舟にお染とその母親が乗って野崎村を去っていくということなのだけど、歌舞伎の方では三味線の、いわゆる「野崎の送り」が終わった後に、久松とお染を見送ったお光が、土手の上で父親の久作にすがりついて泣くという演出。以前、歌舞伎の感想でも書いた通り、わたしはどうもこの水っぽい演出が好きではない。センチメンタル過ぎるでしょ、なんとなく。一方、文楽の方では、お光が久松とお染を見送ったあと、舞台は併走する籠と舟の移動の舞台に変わって、三味線の「野崎の送り」を聞かせて終わる。
今回の公演では、舟は屋形船みたいな形のものだったので、舟に乗ったお染とその母親の芝居はなく、船頭のおどけた芝居のみだったのは残念だったけど、やっぱり文楽の終わり方の方が、道中気分やローカルカラーがあるし、ウェット過ぎなくて洗練されている。それに、最後にお光が大泣きするという演出だと、「少女性」というのか「幼女性」ばかりが強調されて、芝居がガキっぽくなると思う。
ところで、この「野崎の送り」という三味線の節は名曲でとっても風情がある。落語家・八代目桂文楽の出囃子「野崎」は、この「野崎の送り」を出囃子風にアレンジしたものなんだけど、桂文楽ってこういうところでもやっぱり艶っぽい噺家だなって気がしますね、まったくの蛇足なんだけど。
というわけで、久々の文楽の感想でした!
歌舞伎版『野崎村』の感想!
PS:歌舞伎の竹本葵大夫のHPに、今年やった「野崎村」に関する詳しい話が載っています。興味のある方はどうぞ、御参考まで!
・竹本葵大夫HP(『野崎村』)
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マンガ好き、小泉嫌いでもあります…。
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そんなに文楽は詳しくありませんが、今後もよろしくおねがいします!