切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

一月歌舞伎座 夜の部「春の寿」「車引」「道成寺」「切られ与三郎」

2010-02-20 23:59:59 | かぶき讃(劇評)
遅いですね。先月の感想。

①春の寿

要するに、雀右衛門を出すための演目だったんでしょう。(なにしろ、「女帝」役なんですから。)

なので、雀右衛門に代わって出た魁春もしどころがなくて気の毒な感じ。福助、梅玉には品がありましたけどね~。

②車引

夜の部はココからというか、エエと・・・(・・・はご想像ください!?)。

とにかく、今後こういう凄い「車引」はないでしょうねえ~。と、いいたくなるような、貴重かつ異様、古怪な舞台でした。

通常だと、桜丸、梅王丸が編み笠をかぶって登場するくだりって、若い役者が頑張っちゃう威勢のいいイメージでしょ(特に近年)。

そこをベテラン吉右衛門と大ベテランの人間国宝・芝翫が演じるって、そのこと自体が貴重である上に、歌舞伎役者としては大柄な吉右衛門とかなり小柄な芝翫のコンビ!

身長差がこんなに芝居のイメージを変えるとは、正直驚きました。

こんな表現はお叱りを受けるかもしれませんが、映画『フリークス』みたいな、見世物小屋的な感覚・・・。たぶん、江戸時代の歌舞伎にはあった要素なんでしょうが、伝説的な幕末の俳優市川小團次の舞台もこういうビジュアル感だったのかなあ~、なんてことまで想像させる舞台でしたよ。

しかも、ベテラン二人なので、舞台が大きい!

この芝居では、独特の草履の脱ぎ方があって、吉右衛門が失敗していたのはご愛嬌ですが、編み笠を取るときの「播磨屋!」の大合唱!

普段、掛け声はあんまりやらないわたしも、思わず声を出してしまいましたよ!

それぐらい、吉右衛門独特の台詞回しと、芝翫のちょっと高い感じの立ち役の台詞が気持ちよかった!

松王丸の幸四郎も、吉右衛門、芝翫に引っ張られてか、いつになく重々しく上手から登場したし、それに加えて、富十郎の時平!

通常、悪役の時平は青隈でインベーダーみたいなルックスだったりするんだけど、今回の富十郎は青隈なしで、それでいて悪役の貫禄が凄い!これというのも、堂々とした台詞回しがいいからなんでしょうねぇ~。

というわけで、堪能させて頂きました!なお、錦之助の杉王丸もきれいでしたよ!

③道成寺

勘三郎の花子。

わたしの観た日(1月24日)だけかもしれないんだけど、元気ないように見えたんですよね。

実際、上演時間が5分くらい延びてしまったし、何かあったのかななんて勘繰ったりして・・・。

で、気になったのは、この舞台、所化(注:お坊さんのことね!)がやけに若いんですよね。「なんか、子供ばっかりじゃない?」なんて思ってしまったんだけど、これは歌舞伎の舞台が今月多いからなんでしょうか?でも、歌舞伎座ご出勤メンバーはいるんだしね・・・。

所化で面白かったのは、所化同士が笑っちゃっていること。ところで、「関西では八つ切りパンが売ってない」って話を所化がやっていたんだけど、本当なんですか?

さて、本題の「道成寺」ですが、鞨鼓(*「かっこ」。胸につける小さな太鼓のこと。)のくだりから鈴太鼓あたりにきて、ようやく勘三郎、元気になってきたな~という印象でしたね、わたしは。

そのあとが、衣装の引き抜きで鐘入りだから、押し戻しのことを考えて、力をセーブしてたってことなんでしょうか?

でも、押し戻しもそんなに元気だとは思えなかったなあ~。

勘三郎の舞踊の良いときは、もっと運動神経のよさそうな花子ですからね~。

昼の部は辛抱立ち役の義経を演じていたことだし、この日は疲れが出た日だったのかも?

因みに、観ているわたしも疲れがピークではあったんですけどね~。

(前日大阪松竹座で忠臣蔵の通しを昼夜観劇、深夜バスで東京に戻って、新橋演舞場の昼の部を観て、歌舞伎座の夜の部でしたから!)

④切られ与三郎

染五郎の与三郎に、福助のお富の舞台。

二人が出遭う「木更津海岸見染めの場」。

お富という女性は、赤間源仁衛門のお妾という設定だけど、芝居の上ではあんまりすれてないというか、案外真面目な女性というイメージですよね。

~なんだけど、ここの福助は貫禄ありすぎで、妙に悪女っぽいんですよ。だから、遊び人の若旦那与三郎に、あれではよろめかないんじゃないの?ってわたしは思ってしまったなあ~。

堅気じゃないのに隙のある女っていうのが「お富」のキャラだとすると、隙がなさ過ぎに映っちゃうんですよね~。少なくとも、わたしにはそう思えました!

染五郎の与三郎は、甘えん坊というより駄々っ子ぽい風。これは、染五郎がまだ若いということなんでしょうかね?(仁左衛門との違い?)

ここで、わたしが好感を持ったのは、鳶頭金五郎の錦之助。その気風のよさは、先代錦之助の映画『一心太助シリーズ』を思い出してしまう口跡でした!

なお、染五郎の羽織落とし(お富に一目ぼれした与三郎が呆けて、羽織が脱げるのに気遣いない芝居。)は意外とあっさり気味。もったいつけすぎるのも変だし、あの十一代目團十郎もここは不器用でもたもたした映像が残っているから、結構難しいくだりなのかもしれません。

続いて、「お富久しぶりだなあ~」でお馴染み、「源氏店妾宅の場」。

最初、風呂帰りのお富に通りすがりの番頭籐八が声をかけるわけだけど、ここの福助のお富がその腰の入ったひねり具合といい、形がよくていかにも色っぽい。色っぽ過ぎる・・・。

わたしの印象では、本来お富というキャラは「自分の色気を自覚してない女」という設定だと思うんですよ。だとすると、自覚的にシナを作れる女って、どう考えてもしっかり者にしか見えなくて、籐八が隙(スキ)を突いてどうにかしようと思う、その「隙」がないように思えてしまう。

あれだったら、男はすぐに諦めちゃうんじゃないかな?籐八っさんがいくらおっちょこちょいだといってもね~。

で、妾宅に入って、いよいよ蝙蝠安と与三郎登場。

弥十郎の蝙蝠安は、手足が長い安ですね。だいぶ危なげない感じになったけど、小気味いい小悪党という、江戸前の悪党イメージとはちょっと違うかな~。(たとえば、先代勘三郎の安とかね。わたしのなかでは、蝙蝠安は小男なんです。)

そして、いよいよ、待ってましたの与三郎=染五郎の登場。

「いやさ、お富、久しぶりだなあ~」に至る、玄関先の佇まいから、豆絞りの手拭いを取っての名台詞。これが、真面目なんですよね~、このひとは。

玄関先の手持ち無沙汰でいうと、近年では海老蔵がやっぱり絵になたけど、ここからして硬い感じだったし、待ってましたの名台詞も、歌がない、調子がない、気持ちよくない。なんだか、息苦しいんですよね、客席に緊張感が伝わってきて。

だから、十五代目羽左衛門や十一代目團十郎からすると、子供っぽく感じるし、因縁をつけるくだりが駄々っ子っぽくて、粋じゃない。一生懸命やっているのはわかるけど、遊びがなくちゃあ~。それに、台詞に歌がなくちゃあ~。

そして、じつはお富の兄、和泉屋多左衛門の歌六登場。貫禄があるし、説得力があってよかったなあ~。少なくとも、この人には粋がある。台詞のニュアンスに晩年の萬屋錦之介みたいな渋さも感じたし。

で、歌六の貫禄のせいか、多左衛門登場以降のお富はだいぶ変な貫禄が消えて、ちょうど良いくらいの雰囲気になる・・・。

というわけで、わたしは多左衛門登場以降だけよかったかな~。

ま、厳しい意見で、反論来そうな感じですけどね~。


                 ★    ★    ★

夜の部

一、春の寿(はるのことぶき)
                  梅 玉
                  福 助
                  雀右衛門(休演)→魁春


二、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)
  車引
              桜丸  芝 翫
             梅王丸  吉右衛門
             杉王丸  錦之助
           金棒引藤内  錦 吾
             松王丸  幸四郎
            藤原時平  富十郎


三、京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)
  道行より押戻しまで
           白拍子花子  勘三郎
              所化  高麗蔵
               同  松 江
               同  種太郎
               同  新 悟
               同  種之助
               同  宗之助
          大館左馬五郎  團十郎


四、与話情浮名横櫛(よわなさけうきなよこぐし)
  木更津海岸見染の場
  源氏店妾宅の場
          切られ与三郎  染五郎
              お富  福 助
           鳶頭金五郎  錦之助
            番頭藤八  錦 吾
             蝙蝠安  彌十郎
         和泉屋多左衛門  歌 六
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