切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

二月歌舞伎座 昼の部 「爪王」「俊寛」「口上」「ぢいさんばあさん」

2010-03-11 23:59:59 | かぶき讃(劇評)
今年は意地でも全舞台の感想を書くと決めているので!遅くなりましたが、簡単に感想っ。

①爪王

「動物小説の作家として知られる戸川幸夫作、平岩弓枝脚色で十七代目勘三郎も鷹匠を演じた舞踊劇」ということですが、話がつまらないと思うんですよ。松竹のHPからまんま引用しますが・・・

>雪の降るある日、鷹匠(彌十郎)は訪ねてきた庄屋(錦之助)から、悪い狐(勘太郎)を退治するよう頼まれます。鷹匠は吹雪と名付けた鷹(七之助)を連れて山へ赴き、吹雪を放ちますが狐に敗れてしまいます。春が訪れ、鷹匠は吹雪に獲物を恐れる鷹は王者では無いと言い、吹雪は再び大空へ舞い上がり狐に挑みますが......。

で、鷹にせよ、狐にせよ、着ぐるみなんか着ずに人間の姿のままで「動物だ!」と言い切るところにこの舞台の眼目がありますよね。

で、今回特筆すべきは、七之助演じる女形姿の鷹・吹雪が綺麗だったこと。七之助の女形も「ふるあめりかに袖はぬらさじ」の亀遊あたりから、だいぶ“女ぶり”が上がってきたなあ~と思いましたよ。

そして、七之助演じる鷹の吹雪と勘太郎演じる狐の闘いの舞踊。これが、躍動感溢れるもので、踊りに勢いがありましたね。七之助が奈落に消えるところもハッとする感じだったし・・・。

ただ、鷹匠の老人役の弥十郎に、やや哀れみが薄く、白髪頭ばかりが目立った印象。先代勘三郎はさぞや情の深い鷹匠を演じたんだろうなあ~なんて、いろいろ想像してしまいました。

で、突拍子もないたとえかもしれないけれど、わたしは谷崎潤一郎の『猫と庄造と二人のおんな』みたいな小説を連想したなあ~。あるいは、室生犀星の『蜜のあわれ』とか・・・。要するに、動物を愛玩する男のエロチックさみたいなことなんだけど・・・。

たぶん、原作は動物作家のものだから、色気のない老人の、子供にたいするような情愛を描いているんでしょうが、歌舞伎って艶っぽい芸能ですから、舞台にすると、谷崎、犀星っぽくなるのかな~。武智鉄二の映画までいっちゃあ、やりすぎですけどね。

というわけで、話はともかく、舞台はそれなりに魅せました。

②俊寛

先日、先代勘三郎晩年の「俊寛」の舞台を、歌舞伎チャンネルで放送していましたが、いやがうえでも比べてしまいますね~。

今回は、当代勘三郎の俊寛に、成経=勘太郎、康頼=扇雀、千鳥=七之助、瀬尾=左團次、丹左衛門=梅玉の出演陣。

で、『俊寛』といえば、平家への謀反のかどで流罪になった俊寛一行の、赦免をめぐる物語ということですよね、ざっくりいえば。そして、この話を元にした小説に、芥川龍之介と菊池寛のものがあって、わたしは人を喰ったパロディ版の芥川のものが大好きだということは以前にも書きました。

さて、舞台。

今回の勘三郎は、声や見た目こそ老いを演じてながら視線が鋭く、変なたとえでいうと、北大路欣也の視線のギラギラ感を連想してしまった(まだ、謀反を起こしそうな目というか・・・。)。つまり、本質的には「枯れてない」俊寛だっていうイメージですかね~。

他の役者の俊寛でいうと、吉右衛門の憂愁、仁左衛門のセンチメンタル、幸四郎の大泣き、猿之助の無頼という違いですか。因みに、吉右衛門は先代勘三郎から多くのものを受け取っていると、わたしは考えています。(もちろん、白鸚の要素もブレンドされているんでしょうが。)

他の役では、勘太郎の成経がやや真面目すぎで色気が足りず、七之助の千鳥はクドキの形形は悪くないものの、田舎娘のふくよかさが感じられない。これって、このひとが現代的な女形のタイプだからということもあるのかもしれないですね。なので、前の舞台のスッキリ感に比べると、さすがに物足りなさが残った…。

因みに、前述の先代勘三郎の舞台は、成経=今の團十郎、康頼=先代の山崎権十郎、千鳥=雀右衛門という超豪華出演陣。特に、若いときの團十郎=成経におごそかな色気があって、とかく批判されがちな若いときの芝居も、改めて見ると悪くないなあ~なんて、わたしは感心してしまいましたね。それに、権十郎の台詞がまたいいんですよ、貫禄があって!

で、ちょっと気になったのは、瀬尾の左團次。少なくとも、わたしの観た日はもうひとつ元気がなくて、あの大きな体が少し細くなった印象。顔も小さくなったような…。気のせいなんでしょうか?

そして、梅玉の丹左衛門は本役で文句なしでしょう。

さて、今回一番印象に残ったのは、じつは最後の船を見送る勘三郎の目。どうも、うまく表現でけいないんだけど、そのちょっとぎらぎらしたような、それでいて憂愁を感じる視線は、ちょっと他の役者とも比較できない独特のものがありましたね~。これも、歌舞伎座での最後の俊寛だからなのか?

あの場面でいつも見ると決めている場所を、思いを込めて見詰めていたからなのか?

何はともあれ、最後はちょっとウッときました。(品のない表現ですね、すいません!)

③口上

写メ日記にも書いたけど、わたしの観劇日(2.21)って、たまたま中村又五郎の命日だったんですよね~。なので、勘三郎からこの話が出たときは、思わずウ~ンと唸ってしまいました(客席からも同様の反応が・・・。)。

で、そういえばと思ったら、三階席のロビーの名優の写真に又五郎が加わっていましたね~。もうこれから、ココに加わる名優はいないかな?

口上に休演していたらしい芝翫がこの日は司会(?)。

錦之助の「小川家の代表として~」みたいな言葉も、ちょっと重みを感じてしまったな~。というか、彼が代表になるくらいの役者に成長したことがちょっと嬉しくもあったりして…。

ま、悪くない口上だったんじゃないのかな?

④ぢいさんばあさん

森鴎外原作。

実はあんまり好きな芝居じゃないし、批判記事も書いたことがあるんだけど、今回は気づいたことだけ。

若いラブラブな夫婦が、運命のいたずらから、長い間離れ離れになり、そして再会…。という、ある意味ありふれたストーリーですが、結局役者の情の深さにかかっている芝居ですよね~。

今回改めて思ったのは、仁左衛門が演じると、本当に甘い青春の悔恨みたいな芝居になるなあということ。しかも、以前にも増して、情が深くなった!だから、妙に泣けましたよ、好きな芝居でもないのにね。

それと、今回と今までの違いでいうと、仁左衛門、玉三郎とも、白髪の老けメイクが妙にリアルにみえるようになったということですか。

それまでだと、老け役をやっても、もうひとつ似合わなかった二人が、今回は違和感がなくなった印象…。

これって、ある意味寂しいことなのかもしれないけど、仁左衛門・玉三郎コンビの年輪を感じる話でもあって、歌舞伎ファンとしては感慨深い…。この点も、妙に泣けた原因なのかもしれません。

さて、他では、勘三郎の演じた嫌われ者下嶋という役。

今までだと、橋之助、團蔵、海老蔵など、切っ先の鋭い憎まれ役のイメージがあったのに、勘三郎のアプローチは一味違って、「にぶさの悪」みたいな感じになっていました。わたしは、これはこれで面白いやり方だなあ~なんて観ていて思いましたね~。

で、結論から言うと、この芝居って、時間が主人公みたいな話でもあるでしょ?なので、フローベールの『感情教育』やトーマス・マンの『魔の山』と比べて論じてもいいかもしれないなあ~なんて気もしなくもないところですね。そういえば、『感情教育』も最後は白髪が関係あるんだし…。

というわけで、簡単な感想でした!



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歌舞伎座さよなら公演
二月大歌舞伎
十七代目中村勘三郎二十三回忌追善
平成22年2月1日(月)~25日(木)
昼の部

一、爪王(つめおう)
               狐  勘太郎
               鷹  七之助
              庄屋  錦之助
              鷹匠  彌十郎


二、平家女護島
  俊寛(しゅんかん)
            俊寛僧都  勘三郎
          丹波少将成経  勘太郎
              千鳥  七之助
           平判官康頼  扇 雀
            瀬尾兼康  左團次
            丹左衛門  梅 玉


三、十七代目中村勘三郎二十三回忌追善 口上(こうじょう)
                  芝 翫
                  勘三郎
                  幹部俳優出演


四、ぢいさんばあさん
           美濃部伊織  仁左衛門
          下嶋甚右衛門  勘三郎
            宮重久弥  橋之助
             妻きく  孝太郎
           石井民之進  市 蔵
            戸谷主税  桂 三
            山田恵助  右之助
           柳原小兵衛  秀 調
          宮重久右衛門  翫 雀
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