第四部 Generalist in 古都編

Generalist大学教員.湘南、城東、マヒドン、出雲、Harvard、Michiganを経て現在古都で奮闘中

COVID-19から学んだこと

2020-10-24 15:41:00 | 総合診療

みなさまこんにちわ。

自分がEditor in chief をつとめるジェネラリストコンソーシアムの方に書いた寄稿をこちらにも載せておきます。

正直僕はこのCOVID-19が自分に与えたは影響は計り知れません。かなり大きな方針転換や覚悟を強いらされ、考えさせられた経験になっています。今日は、Status quo bias:現状維持バイアスについてです。コロナという、変わらざるをえない外圧を受けた時の人間としての挑戦と、感情の乱れを毎日俯瞰的に観察するようにしています。

 

COVID-19から学んだこと

COVID-19によるパンデミックはマクロレベルで我々人類の新しい生活様式を模索するようになったと至る所で叫ばれている。そして、私がフィールドとする大学医学教育改革の仕事でも同様の言葉が使われている。しかし、そもそも“新しい考え方”、“新しい試み”等、謳われている内容を深く省察してみなければならない。

例えば、インターネットを用いて、新しくオンライン授業に移行することできた。各講座の教育が見える化された。決定事項を伝える無駄な会議が大きく減った。医学生とオンラインでセミナーを全国レベルで開くことができた等々。よくよく考えてみれば、これらの多くはすでにCOVID-19が到来する前から一部ですでに理論的にまた技術的に確立され実施されてきたことばかりである。

それを採用してこなかったのは我々の判断である。

 

今更ながら新しくともなんとも無い、以前よりある考え方や技術的なものをCOVID-19のおかげで”何とか取り入れることができた”という陰の側面の方が大きいかもしれない。Evidence Based Medicineは我が国に普及してきているにもかかわらず、おそらく医学教育面に関してはいまだEvidence Based Educationが採用されているとは言えない。大学医学部は、本来有用なアイデア、合理的かつ有効な医学教育手法などは大学の現場で仮説を検証して、実証していくべきである。医学部は教育機関であり、医学教育研究の最大の実践場であるはずであるからだ。

 

人は簡単に変われ無い、よって私を含む大学教員も簡単に変われない。これは人類が生存するために、デフォルトとして脳は変わらない事を選ぶ傾向があるためだ(Status quo bias:現状維持バイアスと呼ばれている)。強烈なバイアスは、より強い意志とシステムの構築で教員の省察を促し、De-bias(バイアスの除去)することでしか対処できないと私は考えている。医療の質と安全の分野では米国 Institute for Healthcare Improvement からRCA2 (Root Cause Analyses and Actions)が2015年に発表されたが、最後のAの文字の意味はActionである。結局はどの領域でもActionが全く足りていないということがうかがえる。これは我々の日常教育現場にそのまま当てはまるかもしれない。教育の理論や評論はもういい、我々は実践してこそ価値のある現場にいるのだと常々感じる。COVID-19が私にくれたもの、それはシステムを大きく変革するチャンスであり、医学教育の実践(Action)へ舵取りを行う機会であったと思う。

 

1) Dedeilia A, et al. Medical and Surgical Education Challenges and Innovations in the COVID-19 Era: A Systematic Review. In Vivo. 2020 Jun;34(3 Suppl):1603-1611.

2) Kahneman, D, et al. (1991). "Anomalies: The Endowment Effect, Loss Aversion, and Status Quo Bias". Journal of Economic Perspectives. 5 (1): 193–206.