恭一が死んだ直接の原因は
破傷風にやられたからだ。
高い熱を出し
うわごとを繰り返し、
恭一は僕らに謝った。
「ごめんよ。ごめんよ」
恭一は自分の失敗を謝る。
畑から
芋をほりだし、
それを僕らに
持って帰ろうとしたのに、
畑の親父に見つかってしまった。
手にした芋をとりかえされるだけでなく、
恭一はこっぴどく
親父が手にした棒でぶん殴られた。
その傷から、
破傷風を拾ったんだ。
ろくなものを食べてない。
体力がなかった。
破傷風は恭一を
我が物顔で蹂躙し、
最後に
恭一の命を奪った。
僕らは
ただただ、惨めだった。
戦争に負けたから。
僕らは
同じ日本人の
財産を掠め取り、
親父は
同じ日本人の僕らを
にくんだ。
それは・・・。
僕らには
何も言い訳の出来ない罪。
僕らは
次の日。
恭一の死体を畑の真ん中に
ねころばせ、
そこいらじゅうの芋を
ほりかえし、
恭一の周りに置いた。
僕らは芋が欲しいんじゃない。
そんなこと・・・。
親父にわかるはずも無いだろうけど・・・。
僕らは
飢えていた。
飢えて、
飢えて、
どうしようもなかった。
僕の記憶の中の風景。
ハローの奴らは
ジープに乗り、
女を助手席に乗せ、
ゆっくり、ジープを走らせる。
子供達はジープを追いかけ、
チョコレートをくれ。
キャンデイをくれ。
ガムをくれ。
と、ハローを追う。
戦争に勝ったハローは
女に優位を見せ付ける。
子供達にチョコをばらまき、
女をみつめる。
待遇の優位をみせつけて、女の口に
自分の口をくっつけて、
高らかに笑ってみせる。
だけど、
だけど、
僕らはけっして、
ハローの奴らに、
ねだったことは無い。
飢えは骨身にしみて、
チョコやキャンデイの
甘さは
夢よりもいっそう
手を伸ばせる代物で。
僕らは
惨めにはいつくばってでも
それを
欲しがる飢えを満たすために
けして、
ハローにこびなかった。
そのかわり、僕らは
同じ日本人の畑から、
作物を掠め取った。
ハローの奴らから、
ほどこしをうけるもんか。
へいつくばって、
みじめになるものか。
僕らは僕らの筋を通した。
其の結果が、
恭一の死だった。
僕らは
どこまで行っても孤児だ。
僕らは惨めな孤児だ。
戦争に、・・。
戦争にまけさえしなければ・・・。
僕らは
こんな惨めな死を
まのあたりにすることはなかったはずだ。
だのに、
最後の最後まで。
恭一はあやまりつづけた。
ごめんな。あそこの親父に
めをつけられちまったな。
ごめんな。
何にも、持って帰ってこれなくて。
ごめんな。
ドジをしちゃったよ。
ごめんな。
みんな・・・なくなよ・・・。
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