憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

風薫る丘の麓で・・6

2022-12-19 10:42:09 | 風薫る丘の麓で

僕は自分の将来をまだ決めかねていた。
些細な夢はあったけど、その夢をかなえる現実的な一歩をどこにふみだしていいか、まだ、つかめていなかった。

だけど、僕の腎臓がひとつ、無くなったと知った時、
僕の漠然とした思いが形をととのえだしていた。

医者になるのは、僕の頭じゃ無理だ。
看護師か救急救命士、そのどっちか。

そして、その考えがはっきり決まった時僕は
母さんがひとりぼっちなら、一緒にくらせると想った。

資格をとって、就職したら、僕はどのみち家をでていく。

自立した僕がかあさんと暮らすのは僕の自由だろう。

それに、とうさんとかあさんには、弟も妹もいる。
母さんがひとりぼっちなら・・。
母さんには、だれもいない。
この先、としおいても、誰ひとりいない。

寂しい母さんなのか、どうか、まだ、わからないことなのに、
僕の瞳から、涙がこぼれおちた。
先生があわてて、
「いたいか?」って、僕にたずねて、
「抜糸はちょっと痛む。あんまり痛いなら、痛み止めを注射してあげるよ」
と、笑った。
大げさなこらえ性のないこどもだと想われたに違いない。
だから、看護師も「僕」なんだ。

大人からみたら、そんなにたよりない存在なのかと僕の中で自信がゆらいだ。
母さんにとっても、そうなのかもしれない。と、おもったからだ。

夏休み中、病院ですごせば、新学期から登校できるときかされて、
僕は決心した。

学校にいけば、この先、どうするかの、進路選択も始まる。
母さんが一人ぼっちなら、僕は母さんと暮らしながら
専門学校に通ってもいいと考え始めていた。

奨学金をかりて、バイトすればいい。
母さんが住んでるのが、この街ならば、
寺町に大きな専門学校があったはず。

でも、その前に母さんが一人ぼっちなのか、
家族がいるのか、はっきり、たしかめなきゃいけない。

母さんが一人ぼっちなら、僕と暮らすことを嫌だとはいうまいと想っていた。

じゃなきゃ、僕の手術に駆けつけてくれるわけがない。

僕は輸血に来てくれた人がだれか、確かめていない、独り決めだったことにきがつくと、自分でもおかしくなってきた。

でも、あの夢うつつが本当かどうか、
それも父さんにきけば、わかることでしかない。

僕はかあさんのことを考えて、
ひとつ、問題をのりこえようと想った。

僕が今のかあさんの子供じゃないことを知っていると、父さんにも、今の母さんにも、はっきり告げなきゃ、かあさんのことをたずねることはできないし、
母さんと一緒にくらすことも不可能だ。

本当のことを知っていると告げる事は、僕には、悲しいことだったけど、
それでも、
時期がきたんだと想った。

いつまでも、このままじゃいけないから、
僕は丘の下り坂からあたらしい世界にジャンプしたのかもしれない。

退院の日がちかずいてくると、
僕は此処で、この病室で父さんと話をしようと想った。

三日後には、退院。
夏休みもあと五日。

登校準備の為に始業式に二日早く退院させてくれるのか、
はたまた、大安で、父さんの仕事の都合がつく日曜日だからか?

昼間に見舞いにきてくれた母さんをみていたら、
僕もちょっとつらくなったけど、
まずは、父さんにたしかめるのが先だと想った。

病院特有の早めの夕食をたべおえて、
また、僕はCDを聴く。

もう、左手は自由になっていたから、リピートボタンをおして、
相変わらず、ジャック・スパロゥだ。

「俺はあんたと一緒になりゃあいいとおもってたんだ。いや、ほんとだよ」
ジャックの言葉がうかびあがる。

僕の本心かもしれない。

本当のかあさんと一緒にいてくれりゃあ、良かったんだ。

でも、僕はすぐさま、首を振れる。

もし、そうだったら、僕は今のかあさんにも出会えず、弟や妹も
この世に存在しなかったんだから・・・。

これで、良かったんだと想う。

看護師が巡回にやってきた。



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