憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

邪宗の双神・52   白蛇抄第6話

2022-12-22 11:10:46 | 邪宗の双神   白蛇抄第6話

だが、其れも束の間。
波陀羅の浮き立たせた因縁からの解脱法が、
何も役に立たないという事をしらされる時がくる。
夕餉も終え、片付けを済まし、波陀羅は古手屋を回り
少しずつ集めまわってきた木綿の着物を解くと生まれくる子の為にしめしを縫った。
洗いざらし草臥れたぐらいの古着が、赤子の肌を柔らかく包むことであろう。
そろそろ腹帯を蒔いてやらねばならぬ頃でもある。
戌の日は何時になるのであろうか。
取りとめなくそんな物事を考えながら、夜遅くになって布団の中に潜り込んだ。
うとうととまどろんだ波陀羅の胸を弄る者がある。
それが誰の手であるか、波陀羅がきくまでもない。
「なりませぬ」
その手を掴むと波陀羅は声を潜めて制止した。が、
「比佐乃には・・・できぬ」
一樹が呟き返した。
一樹が求められないといっているのか、
比佐乃の身体ではできないといっているのか。
どちらなのか、あるいは、両方なのか・・・。
「なれど・・・なりませぬ・・・・」
「約束を破った事は悪かったと思っている。
比佐乃に逢いにきたでないに。
波陀羅がここにおるときいて、やもたても堪らずに来たに」
比佐乃の事なぞどうでも良いのだと宥め言を言いたてる一樹である。
「きいた?」
「ああ・・。いなづち様から許しもえておるに。波陀羅・・・ほれ」
若い男の欲情にそそり立つ物の雄雄しさが波陀羅の手に伝わって来る。
「こんなに狂おしいに」
比佐乃にぶつけ切れぬ欲情を、
波陀羅との情交で癒される事を望む若い雄でしかない。
「なり」
もう一度、一樹の手を振り払おうとした波陀羅の思念が混濁し始めてきた。
いなづちの仕業に違いない。
薄れて行く意識の中で波陀羅は、比佐乃の事を意識した。
―こんな所を比佐乃が見たらー
その思いが波陀羅にやっと気がつかせた。
比佐乃が因縁を通る元が自分であるのだと。
親子の相姦という絵図を見た妻が夫を殺す。
波陀羅の因縁絵図を知った双神が一樹の身体を乗っ取る為に
一樹の帰宅を許したにすぎないのだと。
愚かであった。
幸せな夫婦の様子に幸せな姑振りに酔いすぎていた。
比佐乃に近づいてはいけないのは一樹でなく、波陀羅自身であったのだ。
「かず・・・き・・・にげ・・・なさ・・・い」
訳の判らないうわ言に替わり出した波陀羅の口を
一樹は己の口で塞ぎながら、波陀羅の寝着を肌蹴てゆくと、
己の一物を波陀羅の中に滑り込ませた。
うわ言が一樹の塞いだ口の中で早くも喘ぎに変わり始めてゆくのを、
一樹は有頂天で見詰めながら己の腰をくねらせながら、
しつこい程に波陀羅に突き込んでゆくと、
一樹は上がってくるおのれの快感を高める為に、
波陀羅を深く酔わせる為に、自からマントラを唱えだすと、
波陀羅にも同じ事を催促した。
促がされるまでもなく双神の術中に陥った波陀羅は
一樹に口を離されるとマントラを唱え、己の腰を振るようにして
一樹の動きを追従し始めていた。
うすらぼんやりとあいた波陀羅の目の中に双神の姿が映り込んでいた。
たっぷりと二人のシャクテイを吸い取っていた双神の内
なみづちがゆっくりと立ち上がっていた。
この男女の行状こそが比佐乃の因縁をこじ開けるのであり、
欲してやまない政勝という男のシャクテイを手に入れる為の第一歩なのである。
二人を無我夢中の境地に落とし入れたまま、
なみづちは比佐乃に眠りからの覚醒を与える為に比佐乃の元に歩んでいった。

ふと、目覚めた比佐乃は一つ布団に眠る一樹の存在を
確かなものとして触れたくもありそっと寄掛かろうとした。
が・・・、一樹がいない。
厠にでも立ったのかと思う比佐乃の耳に
聞きなれた一樹の声が小さくこごまるように聞こえた気がした。
「マントラ?」
訝し気な比佐乃の耳には、
一樹の声に途切れ途切れに重なる女の声も聞こえて来た。
其れもやはり、マントラなのである。
この瞬間比佐乃は全てを理解した。
波陀羅は始めから一樹とここで落ち合う約束であったのだ。
一樹は宿の亭主の言うように他に女を作っていたのだ。
神様などというのも口から出任せ、謀れたのだ。
血が昇った頭で考える事ほどの短慮はない。
比佐乃は父の形見である脇差しをもつと
声の聞こえる方にそっと忍びよっていった。
火を落とした行灯が薄明るく灯っている。
火を点けたのが双神である事を比佐乃は知るわけもなく、
こそこそ隠れての秘め事なら
まだしも大胆不敵にも女房の眠る横で
平気で己らの行状を楽しむが如くの灯りが
一層比佐乃の神経を逆撫でにしていた。
襖を開け放っても、比佐乃が入って来た事に気がつく様子でなく、
波陀羅は歓喜に咽いでいるのである。
上布団は足元まで手繰りまくられ、
布団の上に白き肌の淫獣が裸体を晒していた。
波陀羅のものを目掛けて一樹の物が何度となく突き入れられている。
一樹のずるりと濡れそぼったものが波陀羅の中から出てくると
この寒さの中湯気をたてているかのようであった。
それが、もう、長い間、この二人がこの行為に酔いしれている事を表わしていた。
本来なら波陀羅を憎み波陀羅を手にかけるのが女の常であろうが、
比佐乃の目の中で繰返し突き動かされてゆく一樹の物が、
一際反り上がったかのように思えた時、一樹は
「波陀羅・・波陀羅・・波陀羅・・・あああ・・・良いに、ああ、波陀羅」
何度も波陀羅に与えられた絶頂を訴えだしたのである。



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