憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

パンパンとチョコレート・・・7

2022-11-02 10:51:47 | パンパンとチョコレート

憲兵の足音はむこうにとおざかっていくようだけど、
この一角は
僕が入り込んだ柵を境界に
袋小路になっていたんだ。

憲兵の一人は柵を見渡せるこの敷地の入り口に
立って、
もう一人が敷地の中に潜んだ僕を追い立てるって
手はずだったようだ。

僕は迷い込んだ敷地の地形を知るわけもなく、
憲兵達が遠ざかってゆく気配をかいでいた。

ハローは、しゃがみながら動き出した僕を見た。
僕は一気にそこから、柵へ戻るために
邪魔っ気なハローを見上げていた。
女が僕を見ようとするハローの顔を
両手で挟みこんで、判らない言葉を喋りながら、
相変わらず、口をくっつけようとしている。

僕はハローが早く其の場所をどいてくれないものかと
そればかり、待っていた。

「何度言ったら、判るのよ。あんたにいってるのよ」

女はハローに手を回し、ハローをみつめたままだった。
今度は日本語を喋りだした女を僕はみあげた。
女は相変わらず、
ハローにねちゃねちゃとひっついていたままだった。

「憲兵はむこうに立ってる。しゃがんだまま、家の中にはいんな」

今度こそ、僕は女が僕に話しかけてるのだとわかった。
女は僕の方をみて、
何かいったら、憲兵に僕の存在を嗅ぎ取られると
わざと、ハローを見て言ったんだ。
たぶん、
さっき、ハローが僕を見ようとしたときも、そうだったんだ。
わざと、
ハローを女のほうに向かせたんだ。
そして、その格好のまま、僕に何度も話しかけていたんだ。

「まったく、あたしが日本の恥なら、
あいつらは、
おめおめ、生き残って、
何をしてるんだろうね・・・」
女は憲兵が僕を追い回してることを
毒づいていた。

じっとしている僕を
横目でみて、ハローとねちゃつきながら、
女はもう一度、同じ事をいった。
「はやく、はいんなよ。
あたしだって、なにも、こんなこと
玄関先でいつまでもやっていたくないんだよ」

女はなにか、ハローに喋りかけていたのも、
僕のことを説明していたのかもしれない。
ハローは僕をみようとせず、
大げさに
女をだきよせていた。
「キューッ・キューッ」
訳のわからない言葉は僕のことを言うのか
女の事をいうのか。
いずれにせよ、
僕は女の立ててくれた
盾の中にしゃがみながら
入り込んだんだ。



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