子どもの頃、東京の多摩地区に住まいしておりました。そこは東京都の武蔵野台地の端なので、水が湧くところです。市街地からちょっとはずれると、沢や沼、林があり、特に湧き水はきれいでした。男の子たちは良くザリガニを採りに行ったりしていました。まだ上水道が整備されていない時でしたので、何処の家も井戸水を使っていました。私のうちでも敷地内に井戸があり、井戸水を使っていました。
まだ小学生入学前の頃です。私は変なことをしていました。私の母はその頃専業主婦でしたし、かなりきっちりとしている人だったので、台拭きも良く井戸水ですすがれているものでした。私はその台拭きの匂いが大好きだったのです。
すすがれた後の台拭きを口に入れてじゅるじゅる台拭きから出てくる水分を吸っていました。
今から考えると「ひょえ〜」な話しですが、本当です。今でもその時の台拭きの匂いが頭の片隅に残っています。母はそれを観ると「何してるの!」と言っては怒ったものですが(当たり前ですね)、私が「だっていいにおいだし」と言いますと、「カビの匂いじゃない」と言っていました。
しかし、私はカビの匂いはみかんやお餅で知っています。そういう匂いではないので、違う、と思っていました。今から考えますと、母の言っていたことはある意味正しいものです。
大人になって、武蔵野の林に入ったとき、ふわっとあの懐かしい香りがしていました。なるほど、と思ったものです。あれは林の中、武蔵野の土地に生息している微生物たちのつくり出す匂いだったんだ、とわかったのです。微生物。言ってみればカビたちの匂いだったんですね。私は台拭きを舐めながら、その微生物たちをお腹に納めていたわけです。
ところでその微生物たちは何処から来たかのでしょうか? おそらくは井戸水だと思います。先日日本酒の生もとづくりを調べていて、生もとに必要な微生物が水からも来る、ということを知り、やはり、と思ったものです。私のお腹にはきっと武蔵野台地の微生物が何種類かは残ってくれていることでしょう。
よく、その土地と水が合う合わない、と言いますが、それはミネラルなどの問題だけではなく、微生物の問題もあるのだと思います。水の中の微生物群が合う合わないとは大いにありそうな気がします。その土地の微生物たちとも仲良くないと暮らせない、ということです。今は上水道が完備していますので、水からの土地の微生物との接触はありませんが、空中にも漂っています。ただ、水から触れるよりは機会は減っているかもしれません。それだけ人が移動し易くなった、ということかもしれません。
今日の日記は自然科学のカテゴリーに入れるかどうか迷うところですが、なんの証拠もない話しのため、普通の日記としました。