無知の知

ほたるぶくろの日記

遺伝子について2

2016-10-02 12:22:39 | 生命科学

今やゲノムの配列はヒトを始め、かなりの数の生物ゲノムの塩基配列が決定されています。ゲノムプロジェクトは現在も進行しています。科学的な設問の解決を越え、今はこのゲノム配列の応用の時代となっています。企業の参入もありますが、良くも悪くもこの成果は現実社会へ具体的な影響を及ぼしつつあります。注意深く見守って行く必要のある分野です。

遺伝子はタンパク質のアミノ酸配列をコードしている部分の他に、あるタンパク質が、何処でいつどのくらい発現するべきなのか、を決める調節領域があります。この遺伝子の発現調節機構が実は非常に重要です。アミノ酸をコードしている遺伝子があったとしても、それが必要なときに必要なだけ発現され、そして止められなくては生物のホメオスターシス、環境適応は成り立たなくなります。

例えばある遺伝疾患では特定のタンパク質が発現しなくなっていますが、必ずしもその遺伝子が壊れていたり、無くなっていたりするわけではありません。突然変異の場所を詳細に観てみるとそれは調節領域にあったりします。

すでに分かっている発現調節だけでも何種類もありますが、それでも分からないことはまだ沢山あります。

例えば話題のES細胞やiPS細胞などではかなり沢山のタンパク質のメッセンジャーRNAがだらだらと発現しています。しかしES細胞やiPS細胞はとても小さく、細胞質のほとんどない細胞です。したがって、いろいろなメッセンジャーRNAが発現し、タンパク質が作られたとしても、それらはすぐに分解されてしまうようです。そして幹細胞は増殖することに細胞のエネルギーの多くが使われています。

つまり、これらの幹細胞では遺伝子発現がかなり甘くなっている=調節されていないと考えられています。無駄なことをやっているのですね。もちろん、幹細胞性を維持するために重要なタンパク質は大量に発現されていてそれらの一つがOCT4です。このように幹細胞では発現調節が甘くなっていてもなぜ幹細胞としての個性を失わずにいられるのか。何故こんなにも発現調節が甘くなっているのか。そのこともいろいろな仮説はあるものの確定していません。

これらの幹細胞も分化するに従い、必要の無いタンパク質の発現は完全に止められ、時空間的に制御された遺伝子発現が始まります。その美しい秩序は生物を研究するものを魅了します。

ところで現在、遺伝子に関する研究は次のフェーズに入って来ています。

「ゲノム編集」という技術がほぼ確立されたためです。今年のノーベル賞候補にもすでに名前が挙がっているくらいの革新的な技術です。この技術はかなり諸刃の刃ではあるものの、その実用性の高さから広く応用されることはまちがいないでしょう。それは動物、特に畜産関係から医療分野まで幅広いものです。(続く)