goo

A Braze - The story of Chernobyl (検証チェルノブイリ 刻一刻)

2007-02-26 | 脱原発

本書の著者は、イギリスの著名な美術評論家だったハーバード・リードの息子の一人であり、94年に出版された(日本語訳である。) ソ連の核兵器開発と原発の歴史を第二次大戦中から追っており、また事故にいたる状況、事故後の対応を何百人もの関係者のインタビューから忠実に追っている点で価値がある。

1986年4月26日 午前1時26分にウクライナ州キエフの北西100キロほどにあるチェルノブイリ発電所第4号炉が爆発した。 炉心は破壊され、2300度の高温で炉心の黒鉛が2週間燃え続けた。 火災を鎮火すべく何千トンもの砂と鉛と中性子を吸収するホウ素が一日180回もヘリから投下された。 真っ赤に燃える炉心から、その間放出された放射性物質は、ベラルーシやウクライナ、ロシアに多量の放射性物質を撒き散らし、ポーランドやドイツをはじめ遠くスウェーデンでも観測された。
 
チェルノブイリ発電所から半径30キロ以内の住民は強制非難、移住をさせられた。 発電所の人間や消化に当たった消防士など31人がひと月以内に放射線障害で死んだ。 ベータ線によるやけど、ガンマ線による内臓の組織の破壊による全身の機能不全、肺に吸い込んだ放射性物質により呼吸困難から窒息死。 それは広島、長崎の原爆の際の死に方と全く同じである。 そして、セシウムやストロンチウムといった放射性物質による甲状腺異常やがんの危険など。  

火災が鎮火しても4号炉からは、高度の放射線が出続けた。 これを封印するために、まずコンクリートの巨大な防護壁が造られ、それから高さ55メートルもある巨大な四角い石棺によって原子炉は封印された。 残存燃料は、高温で砂と溶け合いガラス体と形成して炉心下のコンクリートを溶かさんとして凝固していたという。 高温の炉心がメルトダウンし、地下を穿孔していくチャイナシンドロームという最悪の事態は回避された。

事故の原因は、タービンの試験をするために、原子炉の出力を落としたのだが、規定出力を大幅に下回ったため、本来なら原子炉停止すべき状況でありながら、制御棒を全部抜いて出力の回復を図ったこと。 突然、出力が上がった原子炉に慌てて制御棒を下ろしたところが、この制御棒には、核分裂を減速する前に、瞬間的に出力が跳ね上がるという設計上の欠陥があったため、爆発にいたったものだった。 直接の原因は、タービン試験をなんとか済まそうと規則違反をした人為的ミスにあるにせよ、運転者をそうした行動に駆り立てたのは、遅れていた試験を何が何でも実施することを脅迫する体制に起因するといえた。

チェルノブイリの事故は、広範な反原発、反体制運動を生んだ。 共産党中央委員会が、原発の安全性や事故後の被害についてウソをついたという風評は、2年後のベルリンの壁の崩壊や91年のバルト三国の独立からソ連崩壊の大きな原因の一つとなった。 ドイツでは、建設中だったカルカーの高速増殖炉やゴアレーベンの最終廃棄物処理場が放棄された。 

日本はいまだ原発推進国
地球温暖化の問題は、詰まるところエネルギー問題に行き着く。 化石燃料を燃やさないとすれば、どこに燃料や発電のエネルギーを求めるのか。 ドイツはバイオマスや自然エネルギーを選択した。 アメリカも折からの原油高で、エタノールや燃料電池を促進している。 フランスと日本のみがあからさまに原発や核燃料サイクルの推進を謳い続けている。 フランスは電力の70%以上を、日本は35-40%を原発に頼っている。 原発の問題点は何か。 ドイツは91年に現在運転中の原発の寿命がつきればすべて廃棄し、新規建設はしないとした。 その理由をいくつか挙げている。
1、 原発の副産物であるプルトニウムは核兵器の開発に繋がる危険がある。 原発を継続する限り、プルトニウムは増え続ける。 それが独裁者やテロリストに渡る危険がある(実際にイランや北朝鮮は核兵器を持ちつつある)
2、 コストが高い。 確かに核燃料や原発建設コストだけに限れば化石燃料と比べても競争力がある。 しかし、核廃棄物の再処理や安全な(というものはないが)最終廃棄にかかるコストは膨大なものになる。
3、 燃やした核燃料を再処理したものを燃やす高速増殖炉(プルトニウムとウラン238を反応させてさらに多くのプルトニウム燃料を作る)は、技術的に完成されていない。 特に「もんじゅ」や仏のスーパーフェニックスなどの高速増殖炉でおきた冷却用の液体ナトリウム漏れの問題は解決されていない(通常のウランを燃やす軽水炉では水が冷却に使われる)

放射性最終廃棄物は、数百年にわたって150-200度の温度を持ち続けるという。 ガラス体にしても、それを納めるキャニスターの鋼鉄は何百年も持つものではない。 放射性物質が水に溶け、周辺の地下水を汚染するとすれば、その地の作物は汚染され、人は住めなくなってしまう。 日本の核燃料の再処理をする青森県六ヶ所村は、昨年3月についに部分稼動したが、安全性は誰も保障できない。また、最終廃棄物を地中1000メートルに埋めるために、岐阜県の山奥などがボーリングされているようだが、それとて何百、何千年後に、汚染を引き起こす可能性は否定できない。  いわんやプルトニウムの半減期は2万4千年である。

また、チェルノブイリやスリーマイルの事故は他人事ではない。日本でも、99年に東海村の核燃料製造会社JCOでウラン燃料液濃縮の課程で臨界事故が起こり、作業員が被爆、一人が亡くなり、周辺10キロ以内の住民が避難するという事態となった。 核分裂は12時間以上続いたのだ。 その後2004年に、関電の美浜原発でのタービン室の冷却水漏れ事故では4人が亡くなった。 IAEAの分類では、JCOの事故はレベル4、スリーマイルはレベル5、チェルノブイリは最高のレベル7の事故であるが、より深刻な事故が日本で起きない保障はどこにもない。

ドイツでは、原発は「降りる飛行場のない飛行機を飛ばし続けるもの」だといわれているそうだ。 日本が原発を続ける限り、放射性廃棄物や燃えカスの燃料は確実に何トン、何十トンと増えていく。 それを何処の誰が引き取るのか。 経産省のHPを見ると2007年の予算にも「原子力立国」として、何百億の予算が付けられ、新規原発の建設が進められている。 原発はSustainableなエネルギー資源でないとすれば、早く見切りをつけ代替のエネルギーの開発にもっと戦略的に注力すべきではないのか。  原子力は経産省、バイオマスは農水省といった縦割りで官庁が進めるのではなく、政治が大局的な戦略を打ち出すべき問題だろう。 このままでは明確な方策がないままに、後戻りが出来ないところまで行ってしまうと思われてならない。

日本には、天然ガスなどの資源もなく、バイオ燃料の素材になる作物を栽培する土地も非常に限られているのは確かだ。 しかし、だからといって誰も引き取り手のない高度の放射性物質を生み続ける原発に未来永劫頼るわけには行かないのは自明である。 そのためには惰性で安易な原発継続ではなく、大胆な戦略転換が必要なはずだ。

参考文献
「原発列島を行く」 鎌田慧 集英社新書 2001年
「青い閃光―ドキュメント東海臨界事故」 中央公論社 2000年
「ドイツの森番たち」  広瀬隆 1994年
「原子力発電の基礎知識」  オーム社  1996年

goo | コメント ( 2 ) | トラックバック ( 0 )
 
コメント
 
 
 
私も温暖化が心配 (ヨシ)
2007-02-27 18:08:08
映画「不都合な真実」を観てきました。反ブッシュのキャンペーン映画という要素もなくはないだろうけれど、やはり一人ひとりがモラルの問題として、どうしたら自分たちの身の回りで少しでも温暖化を遅らせることができるか、真剣に考えるべきだと思いました。

一方原子力発電については、私も心配性なので廃止に賛成です。ただ、今の原子力には多数の人と大きなお金が係わっていて、方針転換するにはすさまじいエネルギーが必要です。そしてそれは、yasumaruさんが言うように政治の力なくしては実現不可能です。だとすれば私は、例えば間近に迫りつつある次の参議院議員選挙で、原発に反対してくれる人を選んで投票しようと思います。
 
 
 
Unknown (yasumaru)
2007-03-03 18:31:24
ヨシさん、いつもコメント有難うございます。「不都合な真実」、まだ見に行っていないのですが、是非行くように他に人からも言われました。六本木ヒルズと有楽町あたりではまだやっているようなので、行って見ようと思います。

原発の問題は難しいのでしょうが、日本ではその是非についてしっかりと議論がされていず国民のコンセンサスがない中で継続しているところが問題だと思います。 CO2の問題を議論する上では、エネルギー供給の問題は避けて通れませんからね。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。