ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『成瀬巳喜男を観る』を読んで

2020年02月01日 | 本(小説ほか)
『成瀬巳喜男を観る』(平能哲也編・著、ワイズ出版:2005年刊)を読んだ。

この本は、成瀬巳喜男のいろいろな作品に当たりながら、特に演出術を中心として、成瀬映画の魅力を紹介している。
だから、多くの撮影現場や作品場面の写真が掲載されていて、気楽に読める代物となっているし、内容も当然充実している。

第1章:「成瀬映画はアクション映画である」
成瀬作品は、一見“静かな映画”にみえるが、登場人物がよく動くシーンとして、「歩く」、「振り返る」を、
そして、登場人物の顔や身体の陰影にアクセントをもたらす「光と影」、表現としての「人物の視線・目線の交錯」を紹介する。
著者は、それらを本来のアクションの意味である“動作”をもって、成瀬の作品はアクション映画だと言う。

第2章:「成瀬映画のテンポとリズム」
成瀬作品の、流れるような独特なテンポとリズムを生み出すシーンとシーンのつなぎ方を紹介し、
「フェードアウト、フェードイン」や、その「リズミカルでスムーズなつなぎ方」を説明する。

第3章:「成瀬映画のこだわり」
成瀬のこだわりとして、「雨」の場面や「チンドン屋」、「猫」の登場、そして「縦構図で見せる路地と玄関口」。
また、作品の内容に大きく関わってくる「不吉な電話と交通事故」や「お金にまつわるエピソード」。
そして忘れてはならないのが「ユーモア」である。

第4章:「成瀬映画の逞しい女たちと頼りない男たち」
多くの作品で、ラストシーンで一歩踏み出そうとする「逞しい女性像」があって、反対に、みすぼらしく「頼りない男性像」が成瀬映画の特徴となっている。

第5章:「作品分析『まごころ』と『娘・妻・母』」
戦前の『まごころ』(1939年)における子役たちの自然な演技を引きだす術、特に「目線の表現」を紹介する。
そして1960年の『娘・妻・母』は、世代的に3グループのオールスターキャストによる大家族のもので、
このたくさんの家族構成や各人のキャラクターを、手際よく観客に見せ理解させる手腕を紹介する。

第6章:「インタビュー石田勝心監督に聞く」
石田勝心(かつむね)は、東宝で成瀬監督の『杏っ子』(1958年)から遺作の『乱れ雲』(1967年)まで8本の助監督をし、
他にも多くの監督に付き、1970年に監督デビューした人物。
その人が助監督で成瀬に使えていた時の、現場でのエピソードなどを紹介し、その話題から成瀬その人が身近に見えてくる。

第7章:「成瀬巳喜男フィルモグラフィー」
計89本の、作品スタッフやキャストのデータと共に作品紹介もしてあり、資料としてとても参考になる内容である。

この本は図書館で借りてきたが、最後のフィルモグラフィーが50ページ程もある充実した内容となっている。
だから参考資料として使おうとすると、購入しておかなければいけないかな、と今は考えている。
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