ポケットの中で映画を温めて

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清水宏・5~『東京の英雄』

2020年08月03日 | 日本映画
『東京の英雄』(清水宏監督、1935年)を観た。

東京郊外。
少年・寛一の家族は、仕事で帰りが遅い父と婆やだけで、裕福な家なのに寛一は夕食を一人でする。
父・嘉一は金鉱発掘の看板を掲げる事務所で資金を集めているが、思うような成果が上がらない。
それでも寛一は、父親の帰りが遅いのは金持ちの証拠だと考えている。

寛一が淋しそうだとの婆やの助言もあって、嘉一は“求妻”の新聞広告を出す。
再婚相手に選んだ春子は、寛一より年下の加代子と秀雄の二人の子連れであったが、それでもめでたく婚礼の運びとなる。

嘉一は、明るい家庭ができ事業に専念できると喜んだが、数日後、新聞に資金募集の内面を暴露される。
そのため、嘉一は集めた出資金を持ち逃げして失踪する。
出資者である群衆が事務所に殺到し、とうとう自宅にまで押し寄せる。
対応に追われた再婚早々の春子は、何もわかりませんと頭を下げるより他はなかった・・・

春子は、子どもだけは立派に育てようと決心し、家屋、家財すべてを売り払って安アパートに転居する。
そして食べるために、新聞の求人広告に目をやりながら思案にくれ、やっとクラブの仕事にありつく。

十年が過ぎ、春子たちは東京の洒落た二階建ての家に住んでいた。
ある日、加代子の嫁ぐ日がやって来た。
我が家にもやっと幸せが訪れたと、春子は「あと寛一と秀雄が大学を卒業してくれれば、私も楽隠居だわ」とホッとする。

しかしその幸せも束の間、嫁いだ加代子が本人にも理由がわからないまま帰される。
実は、三人の子どもたちを育てるために春子は、チャブ屋で働いていて今ではそこを経営までしている。

加代子は家出して銀座の街娼となり、母親の現実を知った秀雄は与太者となって家に寄りつかなくなる。
しかし、春子を慕っている血の通っていない寛一だけは、まともに大学を卒業して新聞記者になる。

新米記者として記事のネタを探していた寛一は、偶然に加代子に会い、秀雄も見つけ出して、家に帰るようにと説得する。
しかし、二人は家の前まで来るが引き返してしまう。

ある日、秀雄がヤクザ仲間に刺される。
実は、与太者として秀雄が雇われた会社の社長は、驚くことに、妻子を捨てて雲隠れした義父の嘉一であった。
嘉一は、「満蒙金鉱開発会社」の看板を掲げ、今だに詐欺まがいの経営をしていた。
それを知った秀雄は、こんな会社はゴメンだと考えて脱けようとし、裏切り者としての制裁を受けてしまう。

秀雄は息を引き取り、正義感溢れる記者の寛一は嘉一の会社に乗り込んでいく。
寛一は父親に、ヤクザたちに秀雄が殺されたことを告げる。
そして、母のため、秀雄のため、加代子のため、そして世間のために、自決を要求する。
 
寛一は、新聞記者として父の会社の不正を暴露し、その特ダネ記事によって表彰される。
特別報酬を持って寛一が家に帰ると、春子と加代子は泣いている。
春子は、こんなことをしてもらうために大学を出したんじゃない、お父様に何とお詫びをしたらいいのか、と泣き崩れる。
親の罪を世間に公表した寛一は、お詫びをしなければならないのはお父さんの方です、これで親孝行ができたんです、
お父さんはお母さんにくれぐれもよろしくと言っていましたよと泣き、うなだれながら部屋を出ていく。

自室に行った寛一は、机の上にあった、十年前に描き大切に保管していた父親の似顔絵を壁に貼る。
窓の外を眺めると、新聞を配達する少年の姿があった。

ラストの方になると厳しさがなくなり、ちょっと甘いなと思いながらも、これはこれでいいんじゃないかと納得してしまうサイレント映画だった。

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