ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

ジュリアン・デュヴィヴィエ・15~『旅路の果て』

2019年03月23日 | 戦前・戦中映画(外国)
どれだけ経つのか、久し振りに『旅路の果て』(ジュリアン・デュヴィヴィエ監督、1939年)を観てみた。

南仏の「サン・ジャン・ラ・リビエール老人ホーム」では、元舞台俳優たちが大勢余生を送っている。
入所者のカブリサードは、自分を侮辱するマルニーにイタズラをしたりして厄介ごとを起こし、理事長から注意を受けたりする。

ある日このホームへ、直前までパリで公演し成功を収めていたサン=クレールがやって来る。
彼はカブリサード、マルニーとも旧知の仲であった。
このサン=クレールは、女性の注目の的となり浮き身をやつすのが自慢の種で生き甲斐でもある。
実は、マルニーの妻シモーヌもサン=クレールと関係し、そのために彼女は事故死している。
だから、かつて名優と謳われていたマルニーは、このことで挫折し引退してしまっていた・・・

サン=クレールの元恋人だったシャベールが彼に写真を見せて語りかける。
22年前の写真。
“写っている息子は死んだ。誰かに似ていないか”。
不思議そうな顔をするサン=クレールに、“あなたに”と。
しかし、サン=クレールはシャベールのことを覚えていない。
人生の核となっているシャベールの思い出と、一方では、何も残っていないその記憶。
そのサン=クレールは、カフェで働く17歳の少女ジャネットまでも惑わせる。

カブリサードの日の目をみない人生。
代役専門だったためにそのチャンスも訪れず、生涯一度も舞台に立てなかったカブリサード。
そのカブリサードが、人生最後に大舞台に立とうと足掻く、まさに悲劇的な行動が身につまされる。

サン=クレールによってもたらされたマルニーの苦悩も、余りにも深い。
片や、サン=クレールは今だ舞台で演じているかのような雰囲気の実生活。

人生の黄昏が色濃く流れるなかで、唯一救われるエピソードがある。
この老人ホームが経営難で閉鎖されようとする時の、長年連れ添ってきたが入籍していなかった老夫婦の結婚式。
その二人の姿が、人生のしみじみとした喜びを表す。

サン=クレール役のルイ・ジューヴェ。
カブリサード役のミシェル・シモン。
マルニー役のヴィクトル・フランサン。
これらの俳優による個性のぶつかり合い。その演技力。
それに、隙のない緻密な内容と、そこから醸される強烈な印象。
デュヴィヴィエ作品の中でも最高傑作の一つと言われるこの作品、やはり無条件で納得させられてしまった。

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