ポケットの中で映画を温めて

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『青いカフタンの仕立て屋』を観て

2023年06月30日 | 2020年代映画(外国)
『青いカフタンの仕立て屋』(マリヤム・トゥザニ監督、2022年)を観てきた。

モロッコの海沿いの旧市街、サレ。
失われゆく当国の伝統を守る路地裏の小さな仕立て屋夫婦。

父から受け継いだ仕立て屋で、極上のカフタンを制作する職人のハリム。
昔ながらの手仕事にこだわる夫を支えるのは、接客担当の妻ミナだ。
25年間連れ添った2人に子どもはいなかった。

積み上がる注文をさばくために、2人はユーセフと名乗る若い男を助手に雇う。
余命わずかなミナは、芸術家肌の夫を1人残すことが気がかりだったが、
筋がよく、ハリムの美意識に共鳴するユーセフの登場に嫉妬心を抱いてしまう。
湧き出る感情をなだめるように、ミナは夫に甘えるようになった。
ミナ、ハリム、そしてユーセフ。
3人の苦悩が語られるとき、真実の愛が芽生え、運命の糸で結ばれる・・・
(公式サイトより)

寡黙で職人肌のハリムと、仕上がり期間の不満を述べる客に健気に応対する妻のミナ。
そのハリムの仕事は、布を選んで糸を撚り、緻密な刺繍を施して唯一無二の製品とすること。
そこへ雇われた若い男、ユーセフ。

注文の青いカフタンを仕立てていく中での日常風景。
それは生活空間での数少ない会話だったりする。

前段、起伏の少ない物語の流れに、ひょっとしたら着いていけなくなって眠くなるかなと不安になる。
だが、観ている中でわかってくるミナの不治の病。
ハリムの同性愛の性向とユーセフにもある同じ性向。

モロッコでは、同性愛はタブーであり犯罪でもある。
だからハリムはそれを表に現わさないように内向する。

3人が、それぞれの立場でそれぞれの相手を思いやる。
人が人を愛するとはどのような意味なのか。
この作品は、そのことを静謐ともいえる画面と相まって教えてくれる。

じんわりと余韻を残し、心の深いところに静かに突き刺さってくる、見慣れないモロッコからの作品。
当女性監督の前作品、『モロッコ、彼女たちの朝』(2019年)は是非観なければと強く感じた。

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