夏は、夜。月のころは、さらなり。闇もなほ。
螢のおほく飛びちがひたる、また、ただ一つ二つなど、
ほのかにうち光りてて行くも、をかし。
雨など降るも、をかし。 (「枕草子」第一段)
時は六月のつごもり、いと暑きころほひに、
よひはあそびをりて、夜ふけてやや涼しき風ふきけり。
螢たかく飛びあがる。この男、見ふせりて、
ゆく螢雲のうへまで去ぬべくは秋風ふくと雁に告げこせ
暮れがたき夏の日ぐらしながむればそのこととなく物ぞ悲しき (「伊勢物語」第四十五段)
参考資料:
萩谷朴校注:新潮日本古典集成「枕草子」上, 新潮社, 1977
渡辺実校注:新潮日本古典集成「伊勢物語」, 新潮社, 1976
吉井勇, 竹久夢二著:「新訳絵入伊勢物語」, 阿蘭陀書房, 1917