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現状から目を逸らせて患者さんにならないのも、取り越し苦労して患者さんになりすぎるのも病気の回復には支障が出る。予期せぬ病気に遭遇した方々は巷に溢れる医学知識や一般情報をあれこれと集めて、ともすれば自らのこれからを先取りなさって一喜一憂する。往々にして病気を得た患者さんは疾病の軽重に拘らず夫々不安なものである。医療者の心すべきことの一つは、如何に患者さんに不安を降ろして希望を持って頂けるかということであるが、決してそれは単純で容易な事ではない。やるべきことを行なって感謝して戴けるゴールに至ることがあれば、御一緒に歩を進めていたつもりが何も解ってもらえないとお叱りを受けることもある。磊落に受け止めておられた方の心の奥底に人知れず渦巻いていた、病気に対する悶々を遥か後になって知り、私はその時一体何を、何処を見ていたのだろうと思うこともある。