読書感想251 北氷洋 The North Water
著者 イアン・マグワイア
出身地 イギリス
出生年 1964年
出版年 2016年
邦訳出版年 2018年12月30日
邦訳出版社 (株)新潮社
訳者 高見浩
本作品の受賞歴 2016年ブッカー賞の候補作
2016年ニューヨーク・タイムズのベスト・フィクション5冊のうちの1冊に選ばれる。
☆☆感想☆☆☆
英国の捕鯨船ヴォランティア号がグリーランド沖にむかって出航する。時は鯨油から石油に市場の需要が変わりつつある19世紀半ば。船主のバクスターは捕鯨船を沈没させて保険金をとろうと目論んでいる。捕鯨船の船長は以前に操船していた捕鯨船が難破し、多くの乗員を犠牲にしたブラウンリー。そして人を殺すことに罪悪感のない銛打ちのドラックス。インド帰りのアヘンを放せない元軍医サムナー。セポイの反乱の中で味方の裏切りに遭い、心の傷を負っている。調子のいい一等航海士キャヴェンディッシュ。実直な二等航海士ブラック。敬虔なクリスチャンのオットー。大工のマッケンドリック。アザラシや鯨を獲ったり、子熊を捕まえたりしながら、捕鯨船は進む。最初の殺人はそんなときに起きた。13歳のボーイの少年が凌辱された上に殺害される。捕鯨船は南に帰るべき時期に北へ向かい船主バクスターの望みどおり座礁し沈没する。物語はただ一人の生き残りサムナーの目を通して進んでいく。
この物語は氷の海と氷原という自然の猛威が恐ろしいが、欲にまみれた人間が引き起こす人災に遭った人々の悲鳴でもある。エスキモーの単純な親切さが対照的に際立つ。グリーランドの習俗や鯨やアザラシ、白熊の生態がよく描かれていている。サスぺンスとアドベンチャーを堪能。