読書感想237 海を照らす光
著者 M・L・ステッドマン
出身 西オーストラリア
出版年 2012年
邦訳出版年 2015年
邦訳出版社 (株)早川書房
訳者 古谷美登里
☆☆感想☆☆
第一次世界大戦の戦場から帰国したトム・シェアボーンは、多くの戦友が戦死するなか、自分が生き残ったことに深い罪悪感を抱いていた。これからは人命を助ける仕事をしたいと、灯台守としてオーストラリアの西南部の孤島、ヤヌス・ロックに赴任する。「ヤヌス灯台は、彼が1915年に軍隊輸送船に乗ってエジプトに向かっていたときに見た、オーストラリアの最後の目印だった。」三か月に一度、ヤヌス・ロックへは対岸のパルタジョウズから物資が運ばれてくる。そのパルタジョウズの町で兄二人が戦死したイザベルと結婚し、若い二人はヤヌス・ロックの島で二人きりで幸せに暮らしていたが、イザベルは流産を繰り返した。イザベルの三度目の流産の直後に島にボートが漂着する。ボートの中には若い男の死体と生後間もない赤ん坊が乗っていた。イザベルは赤ん坊に魅了され、本土に報告しようとするトムを説き伏せ、赤ん坊を実子として育て始める。男の遺体は島に埋葬され、赤ん坊はルーシーと名付けられ、トムとイザベルの生活を明るく照らすようになる。三年に一度与えられる休暇でパルタジョウズにもどったとき、トムはルーシーの母親ハナが生きており、赤ん坊と夫を捜していることを知る。トムは今こそルーシーをその母親のもとに返そうとするが、イザベルが強硬に反対する。やむをえず、トムは匿名の手紙でルーシーが無事でいることと父親が亡くなったことを知らせる。そして二度目の手紙にルーシーが持っていた銀のガラガラを添えて送る。それを見たルーシーの祖父が銀のガラガラの情報に多額の懸賞金をかける。事態は大きく動き出す。
ルーシーのヤヌス・ロックでの幸せな生活の断片。
「ルーシーは嬉しそうにイザベルの後について卵を集めに行く。ときどき新しく孵る雛に魅せられている。自分の顎の下に雛を押し当て、その金色のふわふわした羽の感触を楽しむ。・・・のたくった線をいくつも描いては、それを自慢げに指差して、『これママ、これパッパ、これルルとうだい』と言う。・・・トムはルーシーとイザベルが『楽園の池』で水浴びをしているのを眺める。女の子は水しぶきと塩辛さと、自分で見つけた色鮮やかな青いヒトデに夢中だ。指でヒトデを捕まえると、まるで自分でそれをこしらえたかのように、興奮と満足感で顔を輝かせる。『パッパ、みて。あたしのヒトデ!』」
パッパとママとヤヌス・ロックに帰ると言い張る四歳のルーシーを前に、実母のハナは現実のルーシーを受け入れられず、苦しむ。登場人物のなかで、イザベルが一番身勝手。現実感がないほど善良なのがルーシーの父、フランツ・レンフェルト。賢いルーシーの祖父セプティマスや優しい叔母のグウェン。
ヤヌス・ロックの海や強い風、孤島の描写も魅力的だ。
本書は出版されるやベストセラーになり、映画化され「光をくれた人」の題名で日本でも公開された。