韓国語学習のための翻訳で営利目的はありません。
著者 : キム・ホヨン
8)
その時ちりんという音と一緒に騒がしい罵詈雑言を先頭に一群の連中がコンビニへ入ってきた。20代前半の酒気でいっぱいの女の子二人とやはり酒に酔った男の子二人だった。黄色と紫に髪を染めた女の子二人はしきりにののしりながら自分たち同士で騒ぎ、男の子は腹黒さと虚勢が混じった口調でその子達の機嫌をとっていた。どう見ても淑大生ではなく、ナムヨン駅のほうの飲み屋で一杯飲んで回ってきた子供達のようだった。
「ええ、くそったれ、鮒形アイスモナカないじゃない!」
「いいえ、ここあるじゃない。餅入り鮒形アイスモナカ!」
「餅嫌い。めちゃくちゃ嫌いだってば!」
「馬鹿。じゃ餅がない鮒形アイスモナカ、思う存分さがせ。私は栗味バーを食べよう!」
「お前たち鮒形アイスモナカがどんなメリットがあるか知っているかい?
安くて量も多いんだよ。」
「何だって。まだ鮒形アイスモナカ探しているの?あっ、ところでどうして栗味バーがないの?小豆を食べたいのに、ちぇ。」
ごちゃごちゃ騒ぎながらののしる彼らの姿にヨム女史の眉間におのずとしわが寄った。我慢しなければならない。酔った子供達に何と言っても聞いてくれるはずもないし。
「ここにババムバーがある。ババムバーでもがっついて食え!」
「馬鹿。ババムバーは栗だってば!私は小豆を食べたいんだってば!」
「小豆を食べて、氷小豆を食べろ。ここにあるよ!」
「すごく寒いのに何が氷小豆だ、こんな氷小豆!」
「何?このくそったれ何だって?あっお前のかあちゃんー」
「こら、学生!」
どうしても我慢できなかったヨム女史が叫んだ。そしてよその売り場でむやみにののしらずに、早く買って家へ帰れと言い放った。結局癇癪を起してしまった。ののしる子供達にアレルギー症状を見せる彼女は彼らの低俗な発言をもうこれ以上我慢できなかった。しかし、彼らはヨム女史の生徒でもきちんとした青年でもなかった。むしろ酒に酔ったごろつきだと言える。ついにヨム女史に向かってしかめ面をしたまま近づいてくる4名の悪魔になっていた。緊張したヨム女史は唾をぐっと飲み込んだ。
先に近づいてきた、黄色く髪を染めた女の子が床に唾を吐いた。
「ばあさん、ばあさん九尾狐かい?命いくつあるんだ?」
「あんた達が最初に騒ぎをおこしたじゃないか。CCTVに全部でているだろう。」
ヨム女史は努めて平常心を維持して警告した。その時紫色の女の子がヨム女史に持ってきた鮒形アイスモナカを粉々にするように投げつけた。
「計算でもしろ。鮒の目玉が飛び出してしまう前に!」
二人の女の子はきゃっきゃっとせせら笑いながら、ヨム女史にすぐ手出しする態勢で、男の子二人は後ろでこの光景を見てにやにや笑っていた。その時ヨム女史も殺気立った。ヨム女史は退かないことにした。
「あんた達に売らない。私が警察を呼ぶつもりだから。」
すると黄色の女の子が鮒形アイスモナカ一つを掴むと、ヨム女史の頭をこつんと殴った。瞬く間の展開に、ヨム女史は目だけまん丸く開けてどうしたらいいかわからなかった。
「ばあさん。ばあさんさっき何だって?ちょっと学生?私達のどこを見て学生なのかい?くそったれの年寄はどうかするとすぐに若者を全部学生だってさ。私は学校に通っていないのよ。私はばあさんのような先生を投げ飛ばして退学させられたのよ!」
黄色い女の子がまた鮒形アイスモナカでヨム女史の頬を殴ろうとした瞬間、ヨム女史が女の子の手首をしっかりつかんでしまった。
「あんたお目玉をくらうよ、本当に!」
ヨム女史はありったけの力を出して女の子の手首をつかんだ。黄色の女の子は奇声を上げて反抗したけれど、彼女の握力に勝つことはできなかった。かえってヨム女史が手を放すと反抗していた力をどうすることもできずぺたりと座り込んだ。その姿に紫色の女の子がヨム女史の肩をしっかり捕らえた。ヨム女史は反射的に女の子の長く垂らした髪を握って鮒形アイスモナカが載っている計算台の上に押さえつけた。
「鮒の目玉にするって?それが年上に対して言うことか?」
ヨム女史は、紫色の女の子のあがきにも、しばらく頭を揺さぶってぐいっと力を抜いてから放してやった。すぐに女の子はぼうっとした表情で浅く息を吐いて咳をし続けた。すると、野郎どもの表情が険しくなった。ヨム女史は急いで有線電話の受話器を下ろした。このままほったらかしにして時間がたてば近くの地区隊に自動で連結される。
「まったく年寄がくたばって気がおかしくなったよ!」
男の子の一人がレジスターを潰すように飛び掛かった。驚いたヨム女史が計算台の隅に退いた。すると野郎はにやりと笑って受話器を取って有線電話機に載せた。
「どうしてコンビニのアルバイトをしたことがないと思うんだよ?受話器をどうして下ろさないんだ?警察を呼んでどうするつもりだ?」
失敗だった。受話器を下すよりレジの緊急ボタンを押さなければならなかった。野郎はもう一度にんまりとして一行に叫んだ。
「や!かっさらえ!CCTV録画機を取ればいい。金も取ってしまえ!」
ヨム女史は背筋が冷たくなるのを感じながら少しも動けなかった。男の子達が興奮したまま奇声を張り上げ始めて女の子達はレジに飛びついた。怯えたヨム女史はどうしたらいいかわからず手だけ震えていた。
その時ちりんという音とともにドアが開いて誰かが入ってきた。
「や・・・い・・・犬畜生!」
雷が落ちるような声だった。男の子達と女の子達の視線が一瞬ドアに向かった。ヨム女史が振り返って見ると、ドッコさんだった。明らかにドッコさんだった。
「お年寄りにこの・・・これはなんという真似だ!」
りんりんと大声を出したドッコさんは、ぶつぶつつぶやきながら話していたホームレスの男でも、及び腰で動いていた病気の熊のような姿でもなかった。ヨム女史は救援の軍隊が降臨したようにドッコさんを見て感嘆するばかりだった。しかし、若いごろつきどもの目にはドッコさんが決してそう見えないようだった。
「何だ、この犬の骨!あっ、臭い。」
「こいつホームレスじゃない?畜生汚い。ついてないな。」
男の子達が同時にドッコさんに飛びかかった。ドッコさんは彼らを相手に体で持ちこたえた。話そうとしながらドアをふさいで二人の攻撃を全身で受け止めたのだった。男の子達はドッコさんが防御で一貫すると、更に乱暴に拳骨で殴った。一方ドッコさんはもうすでにボールのように体を丸めてドアの前にしゃがみこんだまま微動だにしなかった。
しばらく悪罵と殴打が続いていた中、サイレンの音がした。女の子達がまず気づいて男の子達も慌てたのがはっきり見えた。彼らはドッコさんを押しのけて出ようとしたが、ドアの前に巨大な障害物のように頑張っている彼を押しのけることができないまま、鼻をしっかり捕まえるだけだった。
「わぁ、くそったれ退け!退けって!!うんこのような奴だ!!」
奴らのあがきは制服の男二人が現れるやついに止んだ。その時になって初めてヨム女史は苦しい心臓を鎮めることができた。のろのろ起き上がって警察官にドアを開けてやるドッコさんのとても大きくどっしりしている背中が目に入ってきた。その時頭を回したドッコさんが彼女に向かって苦笑して見せた。初めて見る彼の笑顔は目の周りから流れ落ちる血で見分けがつかなかった。それでもドッコさんは気にかけず血が付いた笑顔を作って見せた。
警察署では奴らの両親のうち一人の中年の男が到着して、脹れてつぶれたドッコさんの顔を見て金銭合意を提案した。驚くことにドッコさんはお金の代わりに別の要求をした。彼は酒がまだ覚めないまま座っている4人に近づいて両手を上げろと言った。奴らは初め躊躇したが中年の男が𠮟りつけると、直ちに小学生が立たされるように腕を上にあげなければならなかった。
南大門警察署を出てヨム女史はドッコさんと一緒に夜明けの南大門市場を歩いた。一人二人商売の準備をしている商人の脇を通り過ぎて、路地の中の酔い覚ましスープの店に向かった。ドッコさんは顔に絆創膏を貼ったまま、凛々しく野菜や牛の血の入ったスープを口の中に噛まずに含んだので、彼女は可哀そうで重苦しい表情で匙と箸を持ち上げたり飲んだりした。
「最近子供達がどんなに恐ろしいか、飛び掛かるなんて。」
「僕も・・・二人を相手にすることはできる・・・そうじゃないですか。」
絆創膏が勲章にでもなるように撫でまわしながら、ドッコさんが歯を剝きだした。ヨム女史は何か更に言おうとして自分のほうこそ子供達に食って掛かったことに気づいた。彼女は苦笑してドッコさんをじっと見た。
「ありがとうございますね。」
「食、食事代・・・払ったのですか?」
「勿論。ところでどうしてちょうど来たのですか?」
「そちら様・・・夜働くこと・・・聞きました。眠くなくて・・・心配にもなって・・・来たのですよ。」
「まあ。私はそちらがもっと心配になりますね。」
ドッコさんはきまり悪いのか、頭をかいては再び匙と箸を使った。
「ドッコさんが堂々と立ち向かうので若い時に喧嘩などをしたと思いました。しかし、殴られるだけだろうとは思いませんね。ちょうどパトカーが来たからよかったものの、大きなけがをするかもしれなかったですよ。」
「警察・・・僕が呼びました。」
「えっ?」
「付、付近に・・・公衆電話・・・あります。子供達が喧嘩を吹っ掛けるのを見て・・・通報してきたのです・・・。殴られるのを見れば・・・警察が助けてくれるから・・・。」
その時ヨム女史の口がぽかんと開いた。ドッコさんは良識があるだけではなく頭もいい。何よりも私のために見回りに来て代わりに殴られてくれた。瞬く間に感嘆と感動がヨム女史の頭の中に満ち溢れた。彼女は再び何事もなく頭をかきながら酔い覚ましスープを食べているドッコさんを観察した。
「焼酎一本注文してあげましょうか?」
ドッコさんの小さい目が大きくなった。
「・・・本当ですか?」
「じゃこれが最後のお酒です。これを食べてお酒を断つ条件でうちの店を見てください。」
ドッコさんの巨大な頭が傾いだ。
「僕、僕が・・・ですか?」
「ドッコさん、できます。すぐ冷えるはずなので夜でも温かいコンビニにいてお金も稼いでください。いつでもいいです。」
ヨム女史はドッコさんの目をまっすぐに見ながら答えを待った。ドッコさんは視線を避けたまま、苦しいように顔をしきりにぴくっとさせて小さい目を回して彼女をうかがった。
「僕にどうして・・・よくしてくださるのですか?」
「ドッコさんだから。それに私、手に負えないし怖くて夜コンビニにいられません。そちらが働いてくれませんか。」
「僕・・・誰か・・・わからないじゃないですか。」
「何がわからない。私を助けてくれた人ですよ。」
「私を私もわからないけど・・・信じることができますか?」
「私が高校の先生として定年まで会った生徒だけで
数万名です。人を見る目があります。ドッコさんはお酒さえ断てばよく働けるでしょう。」
しばらくドッコさんは自分の髭を軽くなでながら唇をしきりにいじった。急な提案ではあるけれど拒絶されたら面白くなかったろう。ドッコさんに手で髭をなでるのをやめて早く話せと催促したい気持ちが沸き上がった。
その時決心したようにドッコさんがヨム女史を見た。
「じゃ・・・一本ください・・・。一本だけ飲んで止めるのはちょっと・・・無念で・・・。」
「そうしてください。ご飯を食べてしまったら、私が前貸してあげるからサウナに行って洗って髪も切って服も買って、どう?そうしてから夕方コンビニに来てください。」
「・・・ありがとうございます。」
ヨム女史は焼酎二本を注文した。すぐ出てきた焼酎一本を彼女が直接蓋を開けてドッコさんに注いでやった。そして焼酎の盃も満たした。
二人は乾杯で雇用契約をしめくくった。
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