4月に読んだ本の短いコメント。
1)アフガンの男 面白さ:☆☆☆☆
著者:フレデリック・フォーサイス 出身地:イギリス 出生年:1938年
出版年:2006年 邦訳出版社:(株)角川書店 邦訳出版年:2008年
コメント:
「ジャッカルの日」の著者が描いたスパイ小説。テロを未然に防ぐべくアルカイダに潜入するマイク・マーティン大佐は、 イラクで生まれイラクで育ち、アラビア語が自由に話せた。アフガニスタンやアイルランドなどでも特殊活動の経験が豊富だった。アメリカのCIAとイギリスの情報部は、アメリカに拘束されているアフガニスタン人の捕虜に成りすましてマイクをアフガニスタンに送り込もうとする。マイクとそのアフガニスタン人の捕虜は十数年前にアフガニスタンで行動を共にし、マイクがアフガニスタン人の命を救った因縁があった。
最新式の武器や偵察機が出てきて、名前を覚えるのも大変だし、その性能にも度肝を抜かれた。登場人物も多く、それぞれの視点で状況が説明されるので複線的で奥行きの深い物語になっている。
2)カウントダウン 面白さ:☆☆☆
著者:佐々木譲 出身地:北海道 出生年:1950年
出版年:2010年 出版社:毎日新聞社
コメント:
夕張市が財政破綻し、その隣の市も夕張市同様財政破綻していた。若い市議が財政破綻を隠し続けた市長の再選を阻むべく立候補をする。
財政破綻するとどうなるかということがよくわかる小説だ。
3)下町ロケット(ヤタガラス) 面白さ:☆☆☆☆
著者:池井戸潤 出身地:岐阜県 出生年:1963年
出版年:2018年 出版社:(株)小学館
コメント:
「下町ロケット」の続編。今回は無人農業ロボットの開発を中小企業の佃製作所と大企業の帝国重工が開発するプロジェクト。
競争相手は同じ中小企業の連合体。佃製作所のエンジンとトランスミッションを帝国重工側の権力者が内製化をしようとして佃製作所外しを企む。競争相手も佃製作所を裏切ったベンチャー企業。身近な農業用ロボットなので面白く読めた。
4)夏子の冒険 面白さ:☆☆☆
著者:三島由紀夫 出身地:東京 出生死亡年:1925年~1970年
出版年:昭和35年(1960年) 出版社:(株)KADOKAWA
コメント:
東京の上流階級のお嬢さんが結婚相手がどれもこれもつまらないから、函館の修道院に入ると言って母親、祖母、伯母と一緒にきたへ向かう。連絡船の中で話した青年は熊を撃ちに北海道に渡ると聞いて、興味をもちついていく。
言葉遣いが古い上流階級で感情移入しにくいうえに、夏子もただわがままなだけで魅力を感じないのでいまいちだった。
5)スサノヲの正体 面白さ:☆☆☆☆
著者:関裕二 出身地:千葉県 出生年:1959年
出版年:2023年 出版社:新潮新書
コメント:
アマテラスの弟のスサノヲは高天原で暴れて、厄介者になった。地上界で疫病をまき散らし人々を皆殺しにすることもあった。「神」は人智をこえた大自然そのもので「災いと幸」の両方をもたらすものと古代人には信じられていたそうだ、「神」に善悪の基準を当てはめることができないのに「日本書紀」によってアマテラスは善、スサノヲは悪と貶められたそうだ。著者はスサノヲとは何者かと「日本書紀」の定説を再検討している。
1。スサノヲを祭る神社は少ないが、武蔵の国の氷川神社がそれにあたる。氷川神社を祭る武蔵国造は出雲国造家の流れを汲んでいる。出雲大社は大国主神を祭っているが、初めに祭ったのは熊野大社のスサノヲだった。
2・天皇家とスサノヲの不思議な関係として、明治天皇が東京に遷御されると、スサノヲの祭られている氷川神社を最初の行幸地として行かれ、伊勢神宮は翌年のことになっている。伊勢神宮が7世紀後半に整えられてから明治維新まで、持統天皇を除き歴代天皇は一人も伊勢に参拝されていない。一方、スサノヲと縁の深い熊野は皇族、貴族、院がこぞって向かっている。アマテラスではなく、スサノヲの地である。
3.いろいろ推測や古代の解釈があるが、結論から言えば、古いヤマトの太陽神は、アマテラスではなくスサノヲだったのではないか。
伊勢外宮の豊受大神は内宮のアマテラスが独り身で寂しいというから連れてこられた女神だし、伊勢斎宮の斎王はアマテラスの妻になるから生涯独身だった。伊勢のアマテラスは男神であろう。スサノヲが生んだ男の子をアマテラスが自分の物(勾玉)からできたのだからと、自分の生んだ女神と交換する。それが天皇家の祖になっている。スサノヲが蘇我氏系の神であることから封印抹殺されたと著者は推論している。
興味深い本だが、推測に推測を重ねているだけなので残念だ。それだけ古代史の研究は難しいのだろう。