著者 : ペーター・ヴォ―ルレーベン
生年 : 1964年
出身地 : ドイツのボン
出版年 : 2015年
邦訳出版年 : 2017年
邦訳出版社 : (株)早川書房
訳者 :長谷川圭
☆☆感想☆☆☆
著者は大学で林業を専攻し、20年以上営林署で勤務、フリーランスでの森の管理を経て本書を出版した。本書はドイツでベストセラーになり、34か国で翻訳されたという。
本書は樹木についての、静かに成長し環境に受身な存在であるといった固定観念を覆すものである。動物のように記憶もあり、痛みも感じ、仲間同士が助け合う社会性があるというのである。
木のコミュニケーションの手段は芳香物質、香りである。サバンナアカシアとキリンの例が挙げられている。アカシアは葉を食べにキリンがくると、数分以内に葉のなかに有毒物質を集める。毒に気づいたキリンは100mぐらい離れた別の木に移動する。それは最初に葉を食べられたアカシアが周りの仲間に知らせるために警報ガス(エチレン)を発散するから、周囲の木は有毒物質を用意する。それで警告が届かない木まで移動するのだ。
また痛みも感じる。ブナもとうひもナラも毛虫が葉をかじると、かじられた部分の周りが変化する。
また「唾液を分類する」という樹木の能力は味覚のようなもので害虫退治に役立っている。害虫は種類によって唾液の成分が違うので、種類がわかったらその害虫の天敵が好きなにおいを発散する。そうすると天敵がやってきて害虫を始末してくれる。
樹木は自ら有毒物質を作り出して害虫を寄せ付けない。ナラは樹皮と葉にタンニンを送り込むことができ、ヤナギもサリシンという物質を作り出す。
また時間の感覚があり、記憶力がある。春か晩夏かと、昼の長さと気温で判断する。
根や菌類を通じて光合成ができなくなっている仲間の木に栄養をおくり助け合っている。
経験を学習する能力があり、著者はおそらく根の部分に脳のような機能があるのだろうと推測している。ミモザの葉に水滴を落とす実験をすると、初めのうちはすぐ葉が閉じたが、しばらくすると閉じなくなる。閉じなくても危険ではないと学んだからだ。数週後にテストを再開すると、ミモザは前回学習したことを覚えている。葉が閉じないのだ。
そのほか森の樹木と公園や街路樹の樹木の違い、針葉樹と広葉樹の構造のちがいなど、興味深い。
本書を読んでから、樹木や植物に対して、今までよりももっと私たち人間や動物に近い存在に感じるようになっている。