勉強目的に翻訳しているものです。営利目的はありません。
著者:キム・ホヨン
5)
その晩、家でTVを見てうつらうつら寝ていたヨム女史は電話の音で目覚めた。液晶を見ると「息子」という単語が浮かんでいて時間は夜中の12時を過ぎたばかりだった。その2種類の組み合わせが与える負担に腹の中で虫唾が走る感じで電話を取った。やはり酒気むんむんの声が携帯の向こうから聞こえてきた。息子は彼女が釜山に行ってきたことも知らず、彼女の誕生日が明日であることも知らなかった。それにもかかわらず、ヨム女史を愛している、愛していても孝行ができず申し訳ないと言った。繰り返されたレパートリーの結末はやはり「コンビニの状態」についての存在論的な質問だった。ヨム女史はお前が口出しするなと言った。息子の答えはいつも、そのように商売がうまくいかないコンビニを整理して自分の事業に必要な資金を出せば、お母さんがもっと余裕ができ平穏に暮らせるという、浮き雲を捕まえる話だった。我慢できなくなったヨム女史は強く投げ飛ばした。
「ミンシクや、家族に詐欺を働くんじゃない。」
「お母さん。お母さんはなぜ僕を信じられないのですか?息子が本当にそんな人間なのか?」
「歴史教師として定年になった私が一言言うと、国家であれ人であれ、したことを持って評価を受けるものなのよ。お前がしてきたことを思い浮かべて見なさい。お前はお前自身を信じることができるかい?」
「お母さん、僕孤独だ。お姉さんもお母さんも、なぜ僕を孤独にするんだ?家族?一体なぜ?」
「絡むなら電話切れ。」
「お母さん。・・・」
電話を切ってヨム女史は台所に向かった。心臓が油を跳ねる鉄板に上がったように苦しかった。痛みがじりじりする音を出して胸全体を圧迫してきた。彼女は冷蔵庫を開けて缶ビールを取ってごくごくあおった。胸の火を、心臓の苦痛を消すから気勢で飲んでごほごほ吐いた。酒に酔った息子の大ぼらを忘れるために酒を飲む自分の姿が情けなかった。
どうしたらいいか本当にわからない。
明瞭な判断力と決断力で今まで人生を無難に過ごしてきたと思った。しかしいつも壊れた秤が彼女に問題を引き起こした。コンビニを整理して息子の奴の事業か詐欺かを助けるとすれば、失うと予想する。それで何かが続くか?それは恐らく残った唯一の財産であるこの部屋二つマンションだろう。青坡洞の丘に20年間色あせたまま建っている古いマンションの3層。ヨム女史の最後の基盤まで吸い取って息子は失敗を止めるかもしれない。
認めるのは嫌だが息子は馬鹿者に加えて詐欺師まがいだ。嫁もそれを知るようになったのか結婚後2年ぐらいであたふたと離婚して、その時は嫁の薄情な決定に怒ったけれど…結局過ちは大部分息子にあるということを認めざるを得なかった。離婚後3年間息子は残った財産までも全部はたいてみすぼらしい様になった。この時唯一助けることのできる母である私は、私は何をしているのだろうか?ソウル駅のホームレスの食事を心配しながら、家を出て酒に酔って苦労している息子のことは何故面倒を見ることができないのだろうか?
ヨム女史はビールを全部空けた後、食卓ですぐに祈り始めた。できることは祈りと切に求めることだけだった。
誕生日を迎えてヨム女史は娘と婿、そして限りなく幸福な孫娘ジュンヒと一緒だった。今回は娘一家が青坡洞へ来ず自分たちの町の住宅商業複合建物内の韓牛店に彼女を招待した。娘の東部二村洞ハイエコマンションとヨム女史の青坡洞のマンションは同じ龍山区にあるけれど、天と地ほどの隔たりがある。龍山区が今やソウルで江南3区の次に不動産が高い町になっているけれど、ヨム女史の青坡洞は依然として丘の小さいマンションと大学の下宿村がある庶民の町だ。娘と婿はいつも銀行が大家だと言って話をそらすけれど、抜け目なくお金を集めてジョンヒが中学校に行く頃になれば、江南のえり抜きの土地へ進軍することを目標にしている。ヨム女史は自分の保守的な経済観念とは違った、攻撃的で野心に満ちた財テクと生活が見えるのが、娘の能力なのか婿の才能なのか時々気がかりだったが、そのすべてが二人にシナジー効果として作用していることを理解するようになった。結婚した後で娘はだんだん娘のようでなく見え婿は更に姻戚のように見えた。幸いといえば、息子のように喧嘩して離婚するよりは、気が合って仲良く暮らす娘家族が、それだけで少なくとも心配にならないことだ。しかし、ヨム女史は会話の方向や肌合い、すべてが違った娘との関係が龍山から江南へ移る頃なら、その物理的距離でも更に遠くなるということをぼんやり感じていた。
そんな渦中に韓牛なんて、高い店として評判のここを母の誕生日で、義母の誕生日だとこのように招くとは・・・率直に感動よりは負担が先立つのが事実だ。久しく娘家族はいつも淑大入口の豚カルビ店でヨム女史の誕生日を準備してきたからだ。遠慮がちに座っていたヨム女史は孫娘ジュンヒを見て笑みを浮かべた。勿論ジュンヒはスマートホンでユーチューブを見ようと、祖母の視線に神経をつかわないけれど、それでも良いのだ。婿と娘は自分たちなりに積立式とか保証式とか金融商品の話をしているので理解する方法がなく、早く韓牛が出てきて食べ物だけに集中したかった。今日は私の誕生日。楽しむ資格があるのは自分だけだと彼女は思った。
食べ物が出てきた。ヨム女史は婿が焼いてくれる肉を自分の口に運ぶのに力を注いだ。娘はジョンヒの世話をして婿はせっせと肉を焼いた。とうとう娘がビールを注いだ後に乾杯してから待っていたように口を開いた。
「お母さん、ジュンヒ、今回テコンドー教室に通うことにしたんですよ。」
「女の子がテコンドーまで何でまた・・・。」
「ええっ、学のある方がどうしてこうなのかしら?お母さん、テコンドーを習うのに男女の差がどこにあるの?ジュンヒはこの間男の子にぶたれて帰ってきたの。テコンドーを習って勝手に振る舞う野郎どもに立ち向かうとジュンヒがまず言ったの。」
娘の言葉が正しい。ヨム女史は旧態依然とした自分の考えがきまり悪くて、どうしようもなく表情が固まった。婿が気を遣う間に娘がビールのコップを空けた。ヨム女史は急いでジュンヒを顧みて表情を緩めた。
「ジュンヒ、テコンドー習いたいの?」
「うん。」
ジュンヒはユーチューブから目を離さずに答えた。
「それでなんで、お母さんの町に良いテコンドー場があるそうよ。師範がとても良いらしいの。国家代表常備軍の経歴に若くて、気持ちも良くて・・・。ここ東村マムカフェでとても評判になっていたのよ。」
「東村マムカフェ?」
「東部二村洞の母親の集まり。インターネットにある。」
「それで その師範はめちゃくちゃじゃないの?お金になる東部二村洞に道場を移すべき、青坡洞の横町で我慢していてどうするの。」
「その師範もそうしようとするよ。ところがここが少し高くない。とにかくこの町に入ってくるのを待つことができなくて、ジュンヒをそこに送らなければならなくて、お母さんの助けが少し必要なようなの。」
柔らかくて極まりない韓牛が突然歯にひっかかったようによく噛めなかった。ヨム女史は勿論ジョンヒと一緒の時間が嫌ではない。しかし、その時間を自分が選択できないという点が気にかかった。
娘はテコンドー場とバイオリン教室の間の空いたジュンヒの2時間をヨム女史が世話してくれたらと望んだ。更に付け加えると教室のシャトルバスがはっきりしないのでバイオリン教室はヨム女史が直接バスに乗せて連れて行ってやらなければならなかった。引退した老人で哀れにも日課がなく見える祖母が孫娘の2時間あまりを世話してやるのが難しいことではない。しかしヨム女史にも日課がある。コンビニもいつでも点検しなければならず、教会の奉仕もしなければならず、痴呆予防のための英単語を毎日必死で勉強しなければならない。しかし、そんなヨム女史の日課は娘や婿の日課とかち合ったら後回しにされるのは当然のことになってしまう。
ヨム女史は娘の頼みを引き受けざるを得なかった。謝礼の言及はなかったけれど、婿と娘がわかって処理してくれるだろうと信頼したまま二言もなく承諾した。