読書感想173 雲霧仁左衛門
著者 池波正太郎
生没年 1923年―1990年
出身地 東京・浅草
出版年 週刊新潮に1972年から1974年まで掲載
出版社 (株)新潮社
☆感想☆☆☆☆
雲霧仁左衛門という盗賊は実在を確認できないそうだが、講釈:大岡政談の中で語られてきていて、歌舞伎の題材にもなっているという。
池波正太郎版の雲霧仁左衛門では、火付盗賊改方との手に汗握る攻防が描かれている。雲霧仁左衛門一味は、因果小僧六之助、木鼠の吉五郎、素走りの熊五郎、七化けのお千代などの曲者揃い。それに対する火付盗賊改方は長官・安部式部の下、与力の山田藤兵衛、同心の高瀬俵太郎、目明しの政蔵の面々。安部式部が長官になってから雲霧仁左衛門一味は2度の大働きをして、呉服屋からは2500余両、札差からは1万両も奪っている。内部に引き込みを潜入させ、犯行時には店の者はだれも気付かぬまま、眠らされている。一人も殺生しないのが雲霧一味のやり方だ。雲霧一味に煮え湯を飲まされつづけていた火付盗賊改方は、もとは雲霧一味にいた密偵・留次郎を使って一味の盗人宿を襲ったが、どこももぬけの殻。そして何かを追っていた留次郎も殺されてしまう。そして留次郎に情報提供した一人働きの盗賊、利吉の存在を知った雲霧一味と火付盗賊改方。どちらが利吉を確保できるのか。一方、名古屋の大店、薬種問屋の松屋吉兵衛は、江戸に来てから女漁りの日々をすごしている。そこに趣向を凝らした女を紹介される。やんごとない身分の尼僧だという。吉兵衛はその色っぽい尼僧に無我夢中になる。
雲霧仁左衛門は、犯行時には殺傷をしないが、裏切り者や、秘密を守るために殺しを躊躇しない。幼い時から手塩にかけて育てて自分の愛人になっている女を盗みの引き込みに使っている。物腰が穏やかで端正な人物と描かれているが、やっていることはえげつない。雲霧仁左衛門に感情移入することはむずかしいが、火付盗賊改方の苦労と熱意には共感するところが多い。