読書感想259 少年たちの戦争
著者 徳永徹
生年 1927年
出身地 東京
少年時代 長崎市
出版年 2015年
出版社 (株)岩波書店
☆☆感想☆☆☆
「少年たち」は昭和2年(1927年)生まれで中学2年の時に太平洋戦争が勃発して17、18歳で原爆投下と敗戦を迎えた3人の長崎の少年のことである。徳永徹と相川賢太郎、田吉正英の3人は長崎師範付属小学校の同級生としてであった。そして県立長崎中学校にともに進学し、原爆投下の時に徳永徹と相川賢太郎は第五高等学校のある熊本にいた。田吉正英は長崎医専で被爆し亡くなった。そうした戦時下の日々を3人の手紙や日記、そして小学校のクラス担任だった田中大二先生が中心になって毎年発行した同窓会文集「蛍雪の友」(戦中・戦後10年)をもとに戦争時代の少年たちの真情を時系列でまとめたものである。全部実名である。著者はこの書を発表した動機を次のように述べている。「戦後70年を迎えた今、戦争の過酷さ、虚しさについての記憶も消えつつあります。天災も、戦争も、忘れた頃にやってくる。体験した人々は語り継がねばならない。こうした思いが、執筆の背中を押す力の一つとなりました。」
読んでいて本当に感心したのは文章がどれもこれも上手だということ。今の中学生や高校生でこれほどきちんとした手紙や、文集、日記が書けるだろうか。家族や年長者や友達にたいする情愛が深いし、国に一命をささげる覚悟が幼いながらもあって、それが純粋な態度になっていて、文章に反映されている。エゴがそぎ落とされている。小学校のクラスの仲が良くて戦時中の三菱の工場での学徒動員や被爆体験を共有することで、さらに絆が深くなっている。年に1回の同窓会誌「蛍雪の友」を書くこともそれに与っている。長崎師範付属小学校から中学校や女学校にほとんど進学しているということなので、エリート小学校であることはまちがいない。だからこそ、こんなに文章が上手なのかもしれない。このクラスの同級生の中で、田吉正英と三菱の工場に勤務していた中島禮子の二人が被爆し亡くなった。51名のクラスメートの中で2名というのは奇跡的に少ないのかもしれない。いろいろな面白いエピソードがあるが、学徒動員で通った三菱の工場でのお昼もそういうものの一つだ。三菱では学生に昼飯は一度も支給してくれなかった。工員やオランダ人捕虜、諫早刑務所から来た囚人にはお米の弁当が出た。馬にも藁束が支給された。学生は家庭から持ってきた炒った大豆を食べていた。それで「馬もよかね!」と羨ましがったという。