読書感想274 西郷の首
著者 伊藤潤
生年 1960年
出身地 神奈川県横浜市
出版年月 2017年9月
出版社 (株)KADOKAWA
☆☆感想☆
幕末から西南戦争の時期まで二人の加賀藩の足軽の青年の歩みを時代の流れの中で描いている。幕末の加賀藩も遅ればせながら西洋式兵学校壮猶館を創設し、近代化に努めるようになる。2人の足軽の青年、一郎と文次郎もその壮猶館に通うようになり、幕末動乱の中に巻き込まれていく。水戸脱藩天狗党の討伐に駆り出された加賀藩は彼らを預かることになり、2人も天狗党の人々と親しく交わるようになる。天狗党は幕閣の移行で死罪となる。開国派と尊王攘夷派の対立が加賀藩の中まで持ち込まれ、二人の親しい尊王攘夷派の藩士が粛清される。そして、戊辰戦争のときには、薩摩と長州について戦ったが、明治政府の中で要職は与えられず、武士は困窮していく。幕末に尊王攘夷派を粛清した重役も暗殺される。それでも尊王攘夷派の不満は解消されない。文次郎は陸軍に入り、西南戦争に出兵する。一郎は薩長藩閥政府に反発して武士の反乱に共感していく。
幕末ものでは、薩摩藩長州藩、対立する幕府や会津藩の人々を主人公にするものが多いが、加賀藩を舞台にするものは初めてだ。武士の時代というのは何でも力で黒白をつけようとする心情に殉じる時代だ。負けるとわかっていても武器を手に取らないではいられない。西南戦争の終わりは武士の時代の終わりだが、その心情は第二次世界大戦の敗北まで連綿とつながっている。
加賀藩の悔しさが、会津藩の人々ほど切実に感じられないので、武器を手に取る気持ちがいまいちわからない。それがこの小説の残念な点だ。加賀藩は幕末において脇役だから、悲劇性がないし、共感も得られにくい。