著者 : 紫金陳
出身 : 中国
出身大学 : 浙江大学
デビュー : 2007年
ネット連載 : 2012年
出版 : 2014年
邦訳出版 : 2019年
訳者 : 阿井幸作
★☆感想☆☆
本書は現代中国のミステリー。訳者の解説によれば、作者の初めての長編ミステリーであり、「諜殺官員(官僚謀殺)」シリーズの第一作にあたるという。邦訳出版にあたって作者から中国の出版社や審査部門の手が加えられていないバージョンの提供を受けたという。
本書は最初から犯人がわかっている倒叙ミステリーで、犯人の徐策と捜査の責任者である市公安局・捜査二所所長の高棟は高校、大学の同級生である。最初の殺人現場の野次馬の中に、アメリカの投資会社で働いているはずの徐策を見つけた高棟は、カリフォルニア大学心理学部の博士課程で犯罪心理学を専攻した、頭脳明晰な徐策に殺人事件について相談する。最初の被害者は公安局副局長の李愛国。防犯カメラが至る所にある道端の車中で心臓を一突きされたが、犯人の痕跡は皆無。車のフロントガラスに「15人の局長を殺し、局長が足りなければ課長も殺す」というメッセージが残っていた。
見どころは高棟がいつ徐策が犯人と気づくかということと、防犯カメラを避けてどのように殺害したのか、徐策がこれから何人殺しつづけ、逃げ切れるかといったところだ。
高棟が徐策に話す場面が中国の警察に対する痛烈な批判になっている。
―― 「犯人が口を割らなかったら?」
「逮捕されて口を割らない犯人はいないぞ」
「要するにごうも・・・・」
「いや、捜査の一環だ」
「分かった。犯人が自供したとしても、その自供が嘘で、裁判で供述内容と事実が違っていた場合はどうす
るんだ?」
「俺はそんなことを起こさない。逮捕さえしてしまえば、喋らせたいことを何でも喋らせられるんだ」高棟
は意味ありげに答えた。 ――
再開発の美名の下に罪のない庶民を殺し、自らは御とがめなしの官僚たち。コネで出世が決まり、刑事事件の加害者も釈放される。自分の出世のために捜査情報を上司に渡さない警察官僚。中国の官僚組織の批判をベースにおいた小説だが、架空の話とはいえ、こうした小説が発表を許される中国社会にびっくりした。意外と言論の自由があるのかな? 初めて読んだ中国ミステリーだったが、とても読みごたえがあった。
著者 : ジェフリー・ディーヴァー
出身地 : USA シカゴ
出生年 : 1950年
出版年 : 2014年
邦訳出版年 : 2015年
邦訳出版社 : (株)文藝春秋
訳者 : 池田真紀子
★☆感想☆☆☆
リンカーン・ライム・シリーズの第11作。連続殺人犯は地下で毒のタトゥーを皮膚に彫りこみ殺害する。タトゥーは短いフレーズが一つだけ。最初の殺人ではThe second, 次の犠牲者にはforty。素晴らしい書体で通常の刺青師だったら1時間はかかるところを15分ほどで完成させている。その数字の意味する所は何か。ライムの片腕アメリア・サックスは現場検証中に地上のマンホールの蓋のつまみ穴から覗く犯人の目を目撃する。犯人は犯行現場で警察の動きを観察している。ごくわずかの遺留品からライムがボーン・コレクター事件について書いた本のページの破片が見つかる。ここではライムが過去に解決した連続殺人事件、ボーン・コレクターとウォッチ・メイカ―事件とのかかわりが出てくる。一方、タトゥー連続殺人犯のビリー・ヘイヴンは、最愛の女性のことを思っていた。
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ラブリー・ガール・・・・
何年も前、彼女を初めて見たときのことを思い出す。といっても、そのときは本人に直接会ったわけではなく、写真だった。しかし見た瞬間に恋に落ちた。そう、ひとめ惚れというやつだ。それからまもなく、叔母が彼女を見てこう評した。「あら、かわいらしいお嬢さん(ラブリーガール)ね。悪くないわ」
それを聞いた瞬間、最愛の女性の彼なりの呼び名が決まった。
その少女は象牙色の美しい肌をしていた。
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未遂事件が2件続く。病院の地下と地下駐車場で。病院の地下ではサックスはビリー・ヘイヴンと遭遇するが逃げられてしまう。ラブリー・ガールはどこにいるのか、誰なのか。ビリー・ヘイヴンとは何者なのか。
どんでん返しがここでも唐突で予測できない。もう少し予測できるような構成にしてほしいと、ないものねだりをしてしまう。火曜日に始った事件が土曜日には解決している。いつものようにスピーディーだ。