題名 : 孤独なスキーヤー
著者 : ハモンド・イネス
生年没年 : 1913年~1998年
国籍 : イギリス
出版年 : 1947年
出版社 : グーテンベルク21(電子書籍)
あらすじ
除隊後、友人と始めた出版社が1年も経たずに倒産し、職を求めてロンドンに来たシナリオライターのニール・ブレアは偶然かつての上官だったデリック・イングレスに再会する。映画監督として成功を収めているイングレスはニールに不思議な提案をする。イタリアのアルプスにあるスキーの保養地、コルチナの山荘に3か月間滞在してスキー映画のシナリオを書くふりをしながら、特にその山荘に出入りする人物を見張って日報を航空便で送ってほしいと。そして娼婦のように見える女性の写真を渡される。カルラの署名が入っている。ニールは何も事情を知らされていないカメラマンのジョー・ウェッスンとコルチナへ出発する。
コルチナのホテルでニールはその山荘、コル・ダ・ヴァルダ山荘について驚くべき事実を聞く。山荘に付属する、麓から人を運ぶ橇のケーブル巻揚げ装置、スリットヴィアを建設したのがドイツ軍だということ。その後売りに出た山荘を買った人物が元ゲシュタポのハインリヒ・シュテルベンだったということ。偽名で山荘に潜伏中だったシュテルベンは逮捕され、その後自殺したこと。シュテルベンは戦争中にイタリアからドイツに金塊を輸送する責任者だったこと。シュテルベンの愛人のキャバレーダンサー、カルラ・ロメッタもシュテルベンの逮捕と前後して姿を消したこと。しかもその山荘の競売が近々行われること。
山荘の泊り客はニールとジョー以外に、売春屋のステファン・ヴァルディニとピアノが達者で陽気なギルバート・メイン、一癖ありそうなギリシャ人のケラミコス。翌日スリットヴィアで上ってきたスキー客の中に写真の女性カルラとそっくりな女性を見つける。ヴァルディニは彼女をフォレッリ伯爵夫人と紹介する。
競売は地元のホテルが競り落とす手はずが、ヴァルディニが名乗りをあげ、あわや落札というところでベニスの弁護士が落札する。ベニスの弁護士の依頼人はわからない。
翌朝、ニールはメインからスキーに誘われる。「モンテ・クリスタッロまで上がってみないか。」登りから下りに入ったところで、メインはニールにクリスチャニアができるか尋ねる。ニールはできないと答える。メインは雪の中にシュプールだけ残して姿はみえない。その跡を追って急勾配を滑降するニールの前に巨大な雪の壁が立ちふさがる。雪の壁の前をきれいに直角のクリスチャニアで曲がるシュプールの跡を見たニールは雪の壁の中に突っ込み埋まってしまう。自力で雪の壁から脱出したニールは元来たコースをもどって助かる。
そこにイングレスとフォレッリ伯爵夫人が到着する。山は吹雪になり、スリットヴィアは運行を停止する。外界から隔絶した山荘の中で山荘に秘められた謎と、山荘に集まった人々の正体が明かされていく。
感想:
背景になっているのは、第二次世界大戦の余燼がまださめやらないイタリア側のアルプスである。主人公を始め主だった人々は復員兵である。今は民間人でもいざというときは軍人時代の感覚が顔をのぞかせる。死地に臨んでも一か八かで打開する勇気と術を心得ている。ハモンド・イネスの他の作品でも第二次世界大戦で活躍した復員兵がでてくる。著者自身第二次世界大戦中は陸軍砲兵隊に所属していたという経歴がある。 日本の復員兵が出てくる小説は、後悔と懺悔に包まれて、ひたすら暗い感じがする。それに対して、ハモンド・イネスの描く人々は、イギリスの誇り高いジョンブル精神の体現者である。敗戦国と戦勝国の違いなのか。そもそも日本には格好いい冒険小説がすくないのかもしれない。
ハモンド・イネスの描く冒険小説は男の世界であり、女はほとんど出てこないか端役である。恋愛小説とはジャンルがはっきり分けられているのかもしれない。