木の物語
きょうもまた
あの木のてっぺんにいる
あれは多分ぼくだ
ぼくの知らないぼくがいる
忘れていたのかもしれない
すっかり忘れていたぼくがいる
ぼくは手を振った
だがそいつは
だまって空をみつめている
空には何もない
木は知っている
みずからを語ろうとして
枝を伸ばしたことを
手さぐりの
その先にまだ
物語の続きがあるかのように
始まりはいつも
小さな一本の木だった
小さな手で植えられた
小さな椎の木だった
そしてぼくは
木だった
*
木の川
ぼくは木の中にいて
きみは木の外にいる
毎日ぼくは
木の川を探している
ときどき木の外で
木肌をノックする音が聞こえる
木の川が見つかるまで
ぼくたちは結婚できない
日が暮れたので
ぼくはキツツキの穴から外に出た
それから夜明けまで
ぼくたちは木肌に耳をあてて
遠くの川の音をきいた
*
ノックする秋
その手は
あなたの手にふれる
あなたの手は木にふれる
木は誰かが
ノックするのを待っている
葉っぱもついに
木の手を離れていった
その手に
あなたの手がふれる
空へと伸びる
木のおもいにふれる
そのとき木は
あなたの背中をノックする
*
神様の声
大きな木には
神様が住んでいると
子どもの耳が憶えている
木肌に耳をつけて
神様の声をきく
そうやって一度だけ
神様の声を聞いたことがある
言葉はわからない
水が流れるような声だった
いまでも夜中に
ふと子どもの耳がおもいだす
どこかで水が流れている
あの音あの声だ
神様ではないかもしれない
とおい音の存在の
音にならない音
言葉にならない言葉
じっと耳をすましてしまう
大きな木はどこにあるのか
夜の木肌にふかく
耳をあてる
*
さよならの木
さよならの声にとまどう
秋は
一本の木だった
小さな葉っぱが小さなさよならをする
大きな葉っぱが大きなさよならをする
掌のような葉っぱが
手を振りながらさよならをする
たくさんのさよならが
風に舞ったあとに
ぽっかり残された青空から
風の声だけが戻ってくる
そして
ふたたび始まりの
その日まで
北風が語るさよならの続きを
木はじっと聞いている
*
はじまりの木
ぼく生まれたい
ぼくの中の小さなぼく
はやく生まれたい
さがしても
どこにいるのか
たずねても
だれも知らない
きのうのぼくではない
きょうのぼくでもない
たぶん
あしたのぼく
風になって
雨になって
葉っぱになつて
年輪になつて
いっぱい生まれる
そのときぼくは
ぼくを捨てる
あれは多分ぼくだ
引き込まれて一気に…
私。失った思いのこと誰よりも知っています
風にのった噂はなし…いえ自分から まだ探しているのです
もう戻れない ではなく戻ってこない思い
耳の傍で聞こえるのです
あの人が 違う人に歌う恋のメロディー…
今日は涙を流せたから 元気が出そう…です
ありがとうございました 誰にもいえない思いです…羽
コメント、ありがとうございました。
探しものって、なかなか見つからないものですね。
物だけではなく、心の中で失われたものなど、そんなものがあったのかどうかも曖昧になりながらも、なおも何かを探してしまいます。
いまも木のてっぺんにいるのは、いつかの自分、古い記憶の中にいる自分であり、其処になにか大切なものを置き去りにしているようにも思えたりします。