風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

おみくじは吉だけど

2020年01月05日 | 「新エッセイ集2020」
正月も、ついたち、ふつか、みっかと、何するでもなく時間も日にちも素早く過ぎて、よっかになってやっと、外の空気が吸いたくなって、近くの神社に初詣でをした。

この神社は、古代より神仏習合の霊場として賑わったらしいが、織田信長の紀伊根来寺征伐の折に焼き討ちにあい、しばらくは廃墟になっていたという。
そのとき唯一残ったとされる拝殿の下で、鈴を鳴らし柏手を打つ。今は拝殿の奥にこじんまりとした社殿と森があるだけの、静かな村の社といった感じで、鎌倉時代の賑わいや戦乱の跡を忍ばせるものはどこにもない。

境内の人影はまばらで出店などもない。形ばかりのように社務所だけが開いているので、挨拶代わりのようにおみくじを引く。
現代は亀の甲羅を焼いて神の言葉をきく時代ではない。一枚の薄い紙には五言絶句の漢詩もどきの文句がならんでいる。意味はよく解らないが、解らないからありがたいのだと納得することもできる。言葉そのものが神であった古代の習わしに、すこしだけ近づいたみたいだ。

砕けた日本文の表記では、「やうつり、ふしん、ゑんだん」などと、なぜかひらがな表記になっている。吉だろうが凶だろうが、家移り、普請、縁談などもはや縁のなさそうなものばかりではあるが、新年の神託となれば、普段は縁なきものと思っていても、あらためて言葉の新鮮さに引き戻されていきそうだ。
めでたいものだ、かしこみかしこみ。




この記事についてブログを書く
« 新年おめでとうございます | トップ | ネズミの歯と代えてくれ »
最新の画像もっと見る

「新エッセイ集2020」」カテゴリの最新記事