先月名古屋で開催された「地球いきもの会議」『生物多様性条約 第10回締約国会議』の会場に行ってきました!!仕事の関係で本会場のサイドイベントに出席してきました。国際条約の会議に参加するのは初めてだったので、興味津々、すごく勉強になることが沢山ありました。
何かと分かりづらいと言われる「生物多様性」ですが、COP10で何が話し合われたか、私なりに紹介しますね。
環境問題に詳しい方ならおそらく1992年のリオの地球サミットについては知っている人も多いと思いますが、この会議で2つの条約について各国の署名が開始されました。
一つは、「気候変動枠組条約」で、その後「京都議定書」の発効へと繋がる温暖化問題の条約ですが、もう一つが「生物多様性条約」だったのです。
この生物多様性条約で、生物の多様性がいかに重要であり、また人類共通の財産であることが国際的にも認知され、またその危機的状況の解決に向けて世界が動き出した訳です。
今年2010年は、「2010年までに生物多様性の損失速度を顕著に減少させる」という「2010年目標(2002年に採択)」が達成されたかを検証する年でもあったのですが、世界全体でみても、また日本においてもこの目標は達成できなかったと発表されたのですね。
これは、本当に深刻なことです。生物多様性の減少による経済的損失は、年間2.5兆~4.5兆ドルとも言われています。生物の絶滅スピードも減速するどころか高まってしまっています。
では、達成できなかった2010年目標の後、どうして行こうか?どうやってこの危機的な状況を世界中の人が協力して解決していくか、その次なる目標を決めるのが、このCOP10の主要議題だった訳です。ですので、日本は議長国を務めた訳ですから、その責任は重大だったと思います。
先日、COP10は閉幕しましたが、ポスト2010年目標として「愛知ターゲット」を採択できたのは、実に大きな成果だったと思います。
【愛知ターゲット】
COP10で採択された「愛知ターゲット」は、2050年までの中長期目標、2020年までの短期目標と20の個別目標からなっています。
中長期目標:「2050年までに、生態系サービスを維持し、健全な地球を維持し全ての人に必要な利益を提供しつつ、生物多様性が評価され、保全され、回復され、賢明に利用される」
短期目標:「2020年までに生態系が強靱で基礎的なサービスを提供できるよう、生物多様性の損失を止めるために、実効的かつ緊急の行動を起こす」
20の個別目標は、「劣化した生態系の15%以上を回復する」、「外来種の侵入を防ぐ」といった具体的な内容となっていて、その中には、「人的・資金的能力が増大する」というのがあります。「遅くとも2020年までに、政府、ビジネス及びあらゆるレベルの関係者が、持続可能な生産及び消費のための計画を達成するための行動を行い、又はそのための計画を実施しており、また自然資源の利用の影響を生態学的限界の十分安全な範囲内に抑える。」という内容になっています。これは政府だけでなく、市民や企業にも取り組みを求められることを意味するものですし、真面目に考えるとものすごく大変な内容だと思いますね。
CO2が経済に組み込まれたように、生物多様性も経済に組み込むことがCOP10でも議論されました。既にCOP8において企業への参加を促すことが採択され、“生物多様性版スターン・レビュー”と称されるTEEB「生態系と生物多様性の経済学」の報告書がCOP10中に発表されました。
この報告書の中には、生物多様性の保全を企業文化の中に取り込むことが提言されています。これまで無料のサービスであると受け止められてきた自然の恵み(生態系サービス)の価値を可視化するのがこのTEEBの役割ですが、これによって企業や私たちの生活がいかに自然の恵みの上で成り立っていたか、またどれだけ生態系に影響を与えているかが改めて認識され、問われることになります。
【名古屋議定書】
COP10では、その他にも様々な採択がされたのですが、もう一つ注目を集めたのが、「名古屋議定書」と呼ばれる「遺伝資源の利用と配分(ABSと言います)に関する国際ルールがあります。
生物多様性条約の中では、多様性には「種の多様性、遺伝子の多様性、生態系の多様性」という3つの多様性があるとしています。
この中の一つ「遺伝子の多様性」について、条約では、「遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分すること」というのが決まっていたのですが、ではどうやって公正かつ衡平に配分するかを決めたルールについては、ずーと決まらなかったのですね。
やはり途上国と先進国で意見が対立してしまっていて、このCOP10でも最終日までもめている状況でしたから、正直どうなるかと心配しましたが、無事に「名古屋議定書」として、国際ルールが決まりました。今後は、この国際ルールに従って各国が利益の配分を行っていくことになりますので、まさに歴史的な転換点になるものだと思います。
【SATOYAMAイニシアティブ】
もう一つ私が特に注目しているのは、日本の里地・里山・里海における自然と人間との関わり方を世界に発信する「SATOYAMAイニシアティブ」の推進が決定したことです。
生物多様性を持続可能な形で保全し、利用していくということは、実は日本人は里地・里山・里海という暮らしのスタイルの中で昔から実践してきたと思います。
もちろん、現在ではいたるところで里山が破壊され、また管理がされず荒廃していっている現状がありますが、国が世界に向けて里山をアピールする訳ですから、お膝元の日本の里山をいかに保全し、現代のライフスタイルに即した里山との付き合い方を真剣に考えていく絶好の機会だと思っています。