知足

自然と共に素敵に生きたい

夏の朝の成層圏

2006年06月28日 | 
夏の朝の成層圏

中央公論社


 遭難して無人島にたった一人でたどり着いた主人公が、生と死に向き合いながら、徐々に生きる力を取り戻し、生きるために何が必要かを必死で追い求め、そして生きることの意味を問いかける。

 南の島の穏やかで澄んだ自然の中で、精霊椰子の木と色鮮やかな色彩を描き、まるで雲の上に浮かぶ成層圏のような美しい自然の中で、人間が根源的な意味として"生きる"とは何なのかを見つめなおし、私たちがあたり前のように享受している文明社会とは何であるかを問いかけている。

 読み終えて、美しき自然の中にいるようなさわやかな気分になれたのと、その奥底で普段の生活とのギャップを感じ、なんだか切なくもなる小説でした。

 


宇宙船とカヌー

2006年06月19日 | 
宇宙船とカヌー
ケネス・ブラウワー著
(筑摩書房)


 一昨年の秋、屋久島を訪れた際に始めてカヤック(カヌー)に乗った。体験ツアーということで、パドルの使い方、カヤックの乗り方など簡単に教わり、波のない川を小旅行した。

 水面ぎりぎりの高さから眺める川は、まさに別世界。きらきら輝く小波を静かに滑るように進むカヌー。屋久島の霊妙な雰囲気をカヌーに乗って肌で感じたあの日を私はこの本を読みながら思い出さずにはいられませんでした。

 世界的な物理学者であるフリーマン・ダイソンによる壮大な宇宙へのロマン。その息子であるジョージ・ダイソンは、バイダルカという素晴らしく美しいカヌーを建造し、カヌーに乗って大自然の中で生活している。実在の父子を描いたこの作品は、科学を夢みて宇宙の不思議を追い求める理論物理学の世界や最先端の科学技術と、ある意味でそれとは対立的な立場とも言えるカヌーでの生活を描いている。

 しかし私は、科学技術や最先端の物理学は、例えば量子力学の世界やビッグバンの瞬間を研究している人たちはある意味で自然界の神妙な仕組みの虜になっていると思うのです。

 宇宙、食べ物、物理学、カヌー、宗教学、エコロジー、海、最先端科学、鯨、つり、、、、その根底に流れているロマンのようなものをこの本を読んで感じました。

 


歴史の流れ

2006年03月17日 | 
点と点が線になる日本史集中講義

祥伝社

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 どうも年号は覚えるのは苦手でねぇ、好きになれないんだよなぁ、歴史って、、。ずーとそう思ってました。

 その一方で日本文化が大好きで、鎌倉や京都や奈良といった古都を旅してみたり、田舎に行ってみたり、名所めぐりをしてみたりする。そこでいろいろな発見をし、感動し、刺激をもらっているのですが、そこには必ず「歴史」というものが付いてきます。というより歴史があるから文化なんだし、文化なんだから歴史があるのですよね。そうやって最近は「歴史」に魅力を感じてきていたのですが、そんな時に出会ったのがこの本。

 歴史学者と言われる人たちは、あるいはその人たちの講義を受けている大学生さんは、ある時代のある出来事のある人物を深く追求し、研究していくスタイルをとっている。なので、ある一面では深く研究はされるけれど、歴史というのは過去と現在と未来のつながりによって成り立っていることを忘れている。というより考えていない。と作者は指摘しています。

 点と点で歴史を捉えているので、時代背景とかその時代背景が生まれた原因であるもっと昔の時代背景について無頓着。それでは、真の歴史観は見えてこないですよね。

 そうすると、その歴史学者さんが育てた学校の先生もどうしても点と点を教えることになる。なるほど、私の中学、高校での「歴史嫌い」はこれだったのかぁ、、、と気づきました。

 この本を読むと、そんな点と点を繋いでいくことで、歴史の捉え方が全く変わるということがすごく分かり、歴史の本当の「おもしろさ」が分かってきます。

 


再会

2006年02月17日 | 
この人と結婚していいの?

新潮社

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この本は4年ぐらい前に読んだのですが、たまたま寄った近所のレストランで再会しました。
この本の著者 石井 希尚さんが経営しているレストラン「KICK BACK CAFE」で、偶然再会したのです。

この本は、男の人と女の人での考え方、習慣の違いなどを鋭く描いていて、自分自身のことを改めて考え直させられたのを思い出しました。
特に、「男はウルトラマン」、「女はシンデレラシンドローム」という例えは、とても分かりやすくて、面白いなぁと思いました。
結婚を考えている人、新婚の人はもちろん、熟年夫婦にも必読の本だと思います。

レストランには、この本以外にもオーナー(石井 希尚さん)が執筆した本がおいてあったのですが、その場で買うとカフェモカがもれなく飲めるということで、「“なりたい自分”になる教科書(ハッピー・セオリー)―今日一日を“いい顔”でスタートできる本!」 という本を買ってみました。(写真は、その本についてきたカフェモカ)

早速、読んでみたところ、これがまたほんとにいい本でして、、、
「たった一つの作品としての自分」というアイデンティティの大切さをとても分かり易く書かれていて、気づきを得るにはとってもよい本だと思いました。かなりお勧めです。

それにしても最近この手の本とよくめぐり合う機会が多いのですが、表現の仕方はそれぞれ違うのですが、言いたいことはみな一つなんだとつくづく思います。
それは、ヨガスートラでいうところの自己、つまりアイデンティティとは何か、ということ。そして宇宙はどうして産まれたのか、人間は何のために産まれたのか、、、ということ。

私の尊敬する恩師で物理学者 佐治 晴夫教授も言っていた「最先端の物理学の世界も宇宙科学の世界も宗教の世界も心理学もみな”宇宙はなぜ産まれたか”」を追い求めている、、、そして21世紀、いままで宗教で語られてきたことが、いろいろな分野で一致しようとしている。。。。

緑の革命、産業革命、IT革命、、、そして21世紀、精神革命がダイナミックに起きつつある、、、そう考えると、わくわくしてくるのは私だけでしょうか。

 


深い河(ディープ・リバー)

2006年02月08日 | 
深い河(ディープ・リバー)

講談社

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遠藤 周作 「深い河(ディープ・リバー)」 を読んで


私のヨガの先生がよく「周ちゃんのお墓参りにいってくる」と言っていたので、周ちゃんって誰だろうと思っていたら遠藤周作さんと生前親しい仲だったらしいのです。

で、遠藤周作さんの作品は読んだことがなかったので「深い河(ディープ・リバー)」を読んでみたところ、その世界観にすっかりはまってしまいました。

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「生と死とがこの河では背中をあわせて共存している」、、、、
全てを包み込む母なる河 「ガンジス河」を舞台にして、人間の生と死、愛、こころ、輪廻転生、そして宗教とは何か、という壮大なテーマを堅苦しくなくみごとに描いている。

「ヒンズー教徒のためだけではなく、すべての人のための深い河…」
宗教、文化、人種を超え、同じ地球という星に住む人間として、全ての生物、全ての自然、全ての人種とどう向き合っていくのか、そんな深い作者の想いが根底にある作品だと思いました。

「神は色々な顔を持っておられる。ヨーロッパの教会やチャペルだけでなく、ユダヤ教徒にも仏教の信徒のなかにもヒンズー教の信者にも神はおられると思います」
「私はヒンズー教徒として本能的にすべての宗教が多かれ少なかれ真実であると思う。すべての宗教は同じ神から発している。しかしどの宗教も不完全である。なぜならそれらは不完全な人間によって我々に伝えられてきたからだ」

私が、ヨガを通じて感じたことは、まさに宗教とは何か?ってことでした。

「さまざまな宗教があるが、それらはみな同一の地点に集り通ずる様々な道である。同じ目的地に到達する限り、我々がそれぞれ異なった道をたどろうとかまわないではないか」

満天の星を見て、宇宙に思いを巡らした時、いろいろな道はあるけれど、その通じる先はみな同じなんだろうなぁ、、、と。

そう、結局は私たちが想い悩んでいる想いも喜びも心弾む気持ちもみな同じ。だからこそ、
「…仏教のいう善悪不二でして、人間のやる所業には絶対に正しいと言えることはない。逆にどんな悪行にも救いの種がひそんでいる。何ごとも善と悪とが背中あわせになっていて、それを刀で割ったように分けてはならぬ。分別してはならぬ。…」
ということだと思うのです。

こんなにも心にダイレクトに響く小説を読むのは初めてでした。
そして、インドに行ってみたいという気持ちがますます大きくなったのでした。

 


下流社会

2006年01月03日 | 
下流社会 新たな階層集団の出現

光文社

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「下流社会 -新たな階層集団の出現-」を読んで。

 戦後高度経済成長期のいわゆる団塊世代における中流社会から現在日本は上流と下流に二極化しつつあり、格差が広がってきている。私もここ1,2年感じていたことなのですが、それを詳細な調査結果を元に分析し、二極化することの問題点と解決策をマーケティングの視点から鋭く描いていてとても勉強になる本だと思います。

 自分の会社でも成果主義になっていますが、成果主義はやる気をもって「できる人」には大変よい制度だと思うのですが、一方で「できない」やる気があまりない人にとっては、どんどん差が開き、社会全体が上流と下流に二極化していくということに私自身かなり危機感を持っています。

 私は20世紀が「物資社会の世紀」だったのに対し、21世紀は「こころの世紀」あるいは「精神社会の世紀」になると考えています。
現に「いやし」がはやっていたり、文化的な活動やNGOなど社会貢献に積極的な人がかなり増えてきています。物質的な豊かさでは心が満たされないということに気づき、より社会的、文化的な活動によって幸福感を得る傾向が既に出てきていると感じています。

 しかしその一方でニートやフリーターが増え、渋谷の町には昼間からぶらぶらしている若者が溢れ、あるいは「お笑いブーム」でNHK離れが起きていたり、もっと言えば自殺や少女殺人事件といった事件が多発したり、、、精神的に堕落した社会の一面がより拡大しています。なぜ文化的、社会的な精神社会と非精神社会とが二極化していくのか、、、

 著者は「自分らしく」という言葉をキーワードにして中流社会から二極化していくメカニズムを解き明かし、成果主義化あるいは多様化する社会で下流化することに対して「機会悪平等」が解決策となると言っています。所得の低い人ほど優遇される様々な措置として、例えば下流の親であっても子供には上流になるチャンスを社会が平等に与えるために「下駄履き入試」「東大学費無料化」「地方から東京へ進学した場合の資金援助」といった方策を提案していて、なかなかユニークでしかも実現可能なとてもいいアイデアだなぁと思いました。

 中流社会から社会全体が上流に向かい、より精神的に豊かな社会になっていくために何が必要か改めて考えさせられました。