押し寄せるグローバル化
東京・品川のソニー本社。市場開発・販売促進部門の社員教育を統括するのはロイ・ホワイト。英国人だ。むろん日本語はできない。昨年夏に欧州法人から抜てきされて来日、人事部長職についた。
欧州法人・市場開発部門のトップはインド人、技術系の米国法人では英国人を頭に置く。東京にある「本丸」の会長兼社長は英国人のハワード・ストリンガーだが、部下の大勢は日本人が占める。「足元を確かめると世界的な人事異動などグローバル化が立ち遅れていたのは本社だった」と気づき、ホワイトを据えたのだった。新卒採用も2013年には外国人枠を現在の14%から30%に引き上げる。
「今年は外国人採用元年」。企業の人事担当者は口をそろえる。
国内市場が主な文具・事務機器大手のコクヨも今年の採用で初めて外国人枠を設けた。総売り上げのうち海外市場からは3%未満。「海外を見据えないと生き残れない」という危機感があった。立命館アジア太平洋大で学ぶバングラデシュ人留学生を採用。来年以降枠を拡大する予定だ。
「とにかくよく勉強し、優秀だ。『母国の未来を背負っている』という気概にもあふれている」。人材開発部、片山一志が語る。 この留学生は日本の有名シンクタンクにも内定していたが、「日本人が得意なものづくりを現場で学びたい」と、コクヨを選んだ。
関西生産性本部が企業幹部らを対象にしたアンケートでは、32%が外国人学生の採用を増やしたいと回答。パナソニックは今春採用の8割を海外拠点で現地採用し、ユニクロを経営するファーストリテイリングは来春、新卒採用の8割を外国人にする。
いまや就職のライバルは日本人だけではない。激しいグローバル化の波が押し寄せるなか、したたかに世界を相手に戦える人材を育て上げようとする企業もある。 伊藤忠商事は、新卒総合職のほとんどが日本人だ。昨年11月には、英語に加えて中国語やポルトガル語などもう1か国語を習得する教育制度を新設した。世界に通用する日本人として複数言語を操れる能力が必要なのだ。
「商社を目指してくるのは海外で活躍したいと思っている志高い日本の学生たちだと信じている。彼らを鍛えれば、国際競争で存分に力を発揮する人材になる」。採用・人材開発室長の徳島操は言う。
企業はどんな視点で学生を見極めるのか――。
ソニーのグローバル人材開発部門長、岸本治は「自ら発想し、考える力。やり遂げた、やり抜いた、という成功体験」と強調する。 そんな能力、経験があれば「洋の東西」は問われない。(敬称略) (2011年3月4日 読売新聞)
3年ほど前、国費給付奨学金が外国人向けにはあるのに、日本人向けにはほとんどないことに気が付き、大きな疑問を感じていた。外国人には学費から生活費までカバーする一人当たり年間約200~300万円規模の国費が(支給期間はいろいろだが)、約一万人に給付されている。
外国人留学生を日本に呼び育成すること、日本の国費を投入することに意義がないとは決して言わない。それはそれで意義があることだろう。
しかし、である。日本人学生向け奨学金のほとんどが貸与奨学金なのに対し、約一万人もの外国人には給付奨学金というのは納得できない。特に地方から都市圏の大学をめざそうとする多くの優秀な日本人学生は大変な思いをしている。学費に困り生活費に困っているかもしれず、進学を断念する者も多いかもしれない。
なぜ日本政府は、優秀な日本人学生を国費で育てようとはしないのか? 上の読売記事を読んで、強くそう思う。