『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は第13回目です。
◆腎臟炎
鮎川氏によると、腎臟炎を治療する際には、急性と慢性を区別すれば充分なのだそうです。
なお、『簡易家庭療法薬の志るべ』(宮城県薬剤師会:1932年刊)という本によると、急性腎臟炎は、感冒やその他の急性伝染病、または中毒症などが原因で起こり、慢性腎臟炎は、急性より移行する場合と、慢性伝染病、リウマチ、アルコール中毒など様々な原因で起こる場合があるそうです。
そして、急性腎臟炎の症状は、普通は悪寒発熱、頭痛、腎臓部疼痛を訴え、嘔吐することがあり、四肢や顔面がむくみ、尿は減少し混濁して赤色となり、尿毒症・肋膜炎等を併発することがあるそうです。一方、慢性腎臟炎は、その経過が緩慢で、眼の障害をきたすことがあるそうです。
ここからは再び『漢方の味』に戻りますが、急性の腎臓炎は、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)や大青竜湯(だいせいりゅうとう)を用いれば大概すぐに治るそうです。
また、慢性の腎臓炎は、大柴胡湯(だいさいことう)と大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)の合方、少し重症の場合は大承気湯(だいじょうきとう)の兼用で治ってしまうのが普通だそうです。
ところで、病気を治療する上で何に着目すべきかということについて、当時の西洋医学の専門家は心臓や肺に重きを置いていたそうですが、鮎川氏は、大事なことは昔から言われている「肝、腎、要」(かん、じん、かなめ)という言葉であり、
「昔の医者は着眼が異(ちが)っていた、流石(さすが)に偉かったと感服させられる。」
と語っています。
鮎川氏によると、肺病(肺尖、肋膜、気管の病気や肺炎)、頸腺結核(るいれき)、扁桃腺の病気、関節炎、胃腸病などは、水毒が直接の原因であり、腎臓を調整することによって解決がつくそうです。
また、腎臓の状態を診断する際に、尿を検査して蛋白があるから腎臓が悪い、ないから腎臓は大丈夫だなどという考え方が問題であり、尿所見一つぐらいを頼りにするのでははなはだ心細く、身体を診て腎臓の診察をしなくてはいけないのだそうです。
したがって、西洋医学の専門家は腎臓の問題を見逃してしまう可能性が高いわけですが、腎臓機能の不調に気づかずにいると、今度は肝臓に異変が起こってきて神経系の病気が現われるそうです。
それで、婦人のヒステリーなどは肝臓の異変であるから肝臓部に手を触れると直ちに診断がつくし、癲癇(てんかん)の患者には、肝臓肥大症に効果のある大柴胡湯を主方とした薬を用いると治るように思われる、と鮎川氏は語っています。
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今回最初に登場した小青竜湯は、『臨床応用漢方医学解説』(湯本求真:著、同済号書房:1933年刊)という本によると、太陽病で、症状が去らず、胃内停水し、吐き気と発熱と咳があり、或(あるい)は渇き、或は下痢し、或はむせび、或は小便が出ず、下腹がふくれ、或は喘ぐ者に対する特効薬だそうです。
なお、太陽病というのは、有熱病の初期のことです。太陽の「太」ははなはだしいという意味で、「陽」の気が表位に盛んなるものを「太陽」といいます。気盛んにして血が行き詰まってふさがるため、頭とうなじが強く痛み、悪寒がする状態です。
この薬は、花粉症の薬として有名ですが、本来は胃内停水を目標に処方され、発熱と咳がみられる様々な病気(百日咳、インフルエンザ、感冒、気管支炎、喘息、麻疹、腸チフスなど)に有効だそうです。
また、大柴胡湯は本ブログの「高血圧と糖尿病」で、大黄牡丹皮湯は「盲腸炎」でそれぞれ解説していますので、よかったら参考にしてください。
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【追記】 2020年8月14日
小青竜湯に関する記述が不正確でしたので、訂正させていただきます。
『皇漢医学第壹巻』(湯本求真:著、湯本四郎右衛門:1933年刊)という本によると、傷寒論には小青竜湯について次のように書かれています。
「傷寒、表解セズ、心下水気有リ、乾嘔発熱シテ咳シ、或ハ渇シ或ハ利シ或ハ噎シ、或ハ小便不利、少腹満シ,或ハ喘スル者ハ小青竜湯之ヲ主ル」
なお、『漢法医学講演集 第1輯』(森田幸門:述、木曜会:1940年刊)という本によると、「傷寒」とは伝染病で、腸チフスやインフルエンザをひっくるめて言ったものだそうです。
したがって、本来は「太陽病」ではなく「伝染病」と書くべきでした。
ただし、「表解セズ」は、発熱等が去らないことで、病邪がまだ体表にあることを意味しているので、「太陽病」の状態であることは間違いありません。