前回は、「80℃ショウガ」で霜焼が治ったという私の体験をご紹介しましたが、体が温まる身近な食材が他にもないか調査したところ、『消費経済合理化運動施設報告』(日本商工会議所:1933年刊)という本の「醤油の話」(松本憲次:著)という講演記録に次のようなことが書かれていました。
◆コップ一杯の水に、盃一杯の醤油を入れて毎朝飲むと、非常に健康を保つ。
◆熱い番茶に盃一杯の醤油を入れて飲むと、胃痙攣が治る。
◆非常に寒い地方において、醤油を一杯飲むと非常に身体が温まる。
また、『最新醤油醸造指南』(栂野明二郎:著、明文堂:1934年刊)という本にも、
◆雪国などで、雪の降る寒い日に、外出の場合、醤油を盃に一杯飲んで出れば、その日一日中暖かく、凍死することがない。
◆(著者本人の体験談として)中学時代に猟が好きで、時々出かけたが、雪の降る寒い日には醤油を飲んで出かけた。そうすると、その日はほとんど終日寒さを感じなかった。
◆醤油二分に番茶八分を入れて毎朝飲むと、音声が良くなる。
◆醤油には毒を制する効果がある。
◆醤油には人生に必要不可欠な各種の成分が含まれているので、醤油は人類の命の親である。
ということが書かれていたので、醤油に体を暖める効果があるのは間違いないようですし、健康を維持・増進する効果もあるようです。
さらに、『醤油と味噌』(黒野勘六:著、帝国教育会出版部:1929年刊)という本には、
◆脳貧血で卒倒した時、醤油番茶を飲むと有効であるという。
◆テンカンや婦人が癪を起した時など、無理にも生醤油を嚥下させると効能顕著であると称される。
◆火傷の際、毒虫に刺された場合など、直に局部に生醤油を塗布すれば効があるという。
◆伝染病菌の殺菌力あることなど学理上明白である。
などと書かれ、『漢法薬と民間療法』(山下弘:著、金園社:1963年刊)という本には、
◆吸物くらいの味のつく程度に醤油と番茶とを注ぎ合わせた醤油番茶は、口渇を止め、胃腸を整え、気力を増し、皮膚を強め、動悸や目まいを鎮める作用を持っているから、心臟や血圧に支障のある人は、入浴の前後にこれを飲むことをおすすめしたい。
と書かれているので、醤油には、単なる調味料の域を超えた偉大な薬効があるようです。
なお、「醤油番茶」は、『石塚式食物治療法 上巻』(石塚右玄:著、石塚食療所編輯部:1921年刊)という本によると、普通の茶呑茶碗に、番茶の煎汁を八割と生醤油二割とを注入し、よく撹拌したものを指すそうです。
最後に、食道がんの治療法として、「醤油番茶」を用いた食養法を『家庭に於ける実際的看護の秘訣』(築田多吉:著、南江堂書店:1938年刊)という本からご紹介します。
<食物の通らぬ病人には乳粉か、ご飯をたくときに出る「おねば」または雑炊を塩からくして与える。固形物で最も良いのは「ウドン」であるが、やはり塩からくして与える。また、固形物を食べるようになったら小豆とコンブの煮合わせが一番有効である。すべて癌腫や腫物は、塩からいものが行くと収縮するから、時々醤油番茶を飲むと、非常に効果があるものである。急ぐと必ず引っ掛かる、引っ掛かると非常に苦しみ病気も悪くなるから、僅かずつ急がずに食べることが大切である。それから石塚式の芋薬を造って、胸の中心に沿って背部と胸と両方に貼り、乾いたら取り除けて、その跡を生姜湯で蒸してはまた貼ると、必ず食道は開いて来るものである。この場合の芋薬は起死回生の卓功を奏するものだということである。>
以上のことを参考にして、醤油を大いに活用していただけたらと思いますが、使う醤油は安物は避け、本醸造と書かれたものを使うようにしてください。
なお、『石塚式食物治療法 上巻』には、番茶とは「茎六分に葉四分の割合に交ざったものを、能く焙じたものです。」と書かれているので、これは現代の「ほうじ茶」のことだと思われます。