河北新報より転載
社説
社説(6/8):「炉心溶融」隠し/曖昧な結論は許されない
2016年06月08日 水曜日
福島第1原発事故から5年がすぎた今頃になって、「炉心溶融」と「炉心損傷」が問題になっている。
事故を引き起こした東京電力はずっと「損傷」と説明していた。発生から2カ月もすぎた2011年5月になって「溶融」と認めたが、実は当初から知りながら隠蔽(いんぺい)していたのではないかという批判を受けている。
もし意図的に隠していたのなら、福島県の住民らを欺く極めて悪質な行為だ。東電は第三者検証委員会で調査中だが、どんな経緯で損傷にしたのか、誰かの指示がなかったのかどうか、明確にしなければならない。うやむやにすることがあってはならない。
さらに国との話し合いがなかったのかどうかも、明らかにすべきだ。事故翌日の3月12日、「炉心溶融」と言及した当時の原子力安全・保安院の審議官が記者会見担当を更迭されており、国の対応も不可解だった。
隠蔽疑惑のきっかけになったのは東電の柏崎刈羽原発を抱える新潟県の「原発の安全管理に関する技術委員会」。福島第1原発事故の検証を進める中で、東電のマニュアルに従って判断すれば、事故の数日後には「溶融」と判断できたことが分かった。
それだけならずさんな見落としかもしれないが、東電の原子力・立地本部長が先月末「溶融に決まっているのに、溶融という言葉を使わなかったのは隠蔽」と発言した。
事故直後の測定データを見れば「常識的な技術者は、そう(炉心溶融)です、と答える。マニュアルがなくても分かる」ことだったという。
炉心溶融は一般的に、メルトダウンと同じ意味。炉心とは原子炉(圧力容器)の中心のことだが、普通はそこに置かれている核燃料(二酸化ウラン)を指す。
炉心溶融はつまり核燃料が高温になって溶け、原子炉の底に落下すること。水がなくなって冷やせなくなると、大して時間がかからずに溶融の危機に見舞われる。
東電の本部長が話したように原子力の技術者であれば分かりきったことであり、ほぼ間違いなく現実に起きていることも認識していたはず。
それを損傷と表現するのは全くおかしい。例えば核燃料に亀裂が入っても損傷だろうが、そんなレベルではない危険な事態に見舞われていた。
不正確では済まされず、事故の矮小(わいしょう)化を図った隠蔽と批判されても仕方ない。何より東電が正確な情報を発信しなくなっては、何が真実か誰も確証を得られなくなる。
本当のことを公にすれば混乱を招きかねないと考えて損傷と言い続けたのかもしれないが、言い訳にはならない。かえって疑心暗鬼になり、混乱を増幅させることにもなりかねない。
東電の検証結果は近くまとまる見通しだが、内容によっては国に対する調査も必要になるのではないか。
この問題に最も関心を持たなければならないのは、被災地の福島県だろう。本来なら新潟でなく、福島が追及すべき事柄。検証の結果が出たなら、東電に対して厳しく問いただしていくべきだ。
社説
社説(6/8):「炉心溶融」隠し/曖昧な結論は許されない
2016年06月08日 水曜日
福島第1原発事故から5年がすぎた今頃になって、「炉心溶融」と「炉心損傷」が問題になっている。
事故を引き起こした東京電力はずっと「損傷」と説明していた。発生から2カ月もすぎた2011年5月になって「溶融」と認めたが、実は当初から知りながら隠蔽(いんぺい)していたのではないかという批判を受けている。
もし意図的に隠していたのなら、福島県の住民らを欺く極めて悪質な行為だ。東電は第三者検証委員会で調査中だが、どんな経緯で損傷にしたのか、誰かの指示がなかったのかどうか、明確にしなければならない。うやむやにすることがあってはならない。
さらに国との話し合いがなかったのかどうかも、明らかにすべきだ。事故翌日の3月12日、「炉心溶融」と言及した当時の原子力安全・保安院の審議官が記者会見担当を更迭されており、国の対応も不可解だった。
隠蔽疑惑のきっかけになったのは東電の柏崎刈羽原発を抱える新潟県の「原発の安全管理に関する技術委員会」。福島第1原発事故の検証を進める中で、東電のマニュアルに従って判断すれば、事故の数日後には「溶融」と判断できたことが分かった。
それだけならずさんな見落としかもしれないが、東電の原子力・立地本部長が先月末「溶融に決まっているのに、溶融という言葉を使わなかったのは隠蔽」と発言した。
事故直後の測定データを見れば「常識的な技術者は、そう(炉心溶融)です、と答える。マニュアルがなくても分かる」ことだったという。
炉心溶融は一般的に、メルトダウンと同じ意味。炉心とは原子炉(圧力容器)の中心のことだが、普通はそこに置かれている核燃料(二酸化ウラン)を指す。
炉心溶融はつまり核燃料が高温になって溶け、原子炉の底に落下すること。水がなくなって冷やせなくなると、大して時間がかからずに溶融の危機に見舞われる。
東電の本部長が話したように原子力の技術者であれば分かりきったことであり、ほぼ間違いなく現実に起きていることも認識していたはず。
それを損傷と表現するのは全くおかしい。例えば核燃料に亀裂が入っても損傷だろうが、そんなレベルではない危険な事態に見舞われていた。
不正確では済まされず、事故の矮小(わいしょう)化を図った隠蔽と批判されても仕方ない。何より東電が正確な情報を発信しなくなっては、何が真実か誰も確証を得られなくなる。
本当のことを公にすれば混乱を招きかねないと考えて損傷と言い続けたのかもしれないが、言い訳にはならない。かえって疑心暗鬼になり、混乱を増幅させることにもなりかねない。
東電の検証結果は近くまとまる見通しだが、内容によっては国に対する調査も必要になるのではないか。
この問題に最も関心を持たなければならないのは、被災地の福島県だろう。本来なら新潟でなく、福島が追及すべき事柄。検証の結果が出たなら、東電に対して厳しく問いただしていくべきだ。