8時に起床。9時に撮影に来たNHKの方と一緒に家を出ました。車内での会話。
「昨日、今回のボナンザが会場に到着したんですけど、松尾さんが負けたそうですよ」と言われてビックリ。
「えっ松尾さんってあの松尾さん」
「ええ」
「本当に松尾歩君(六段)が負けたんですか」
「あっ、すいません間違えました。松尾さんじゃなくてネット中継の松本さん(アマ四、五段)です」
「そりゃそうですよね」ただでさえ心配しているのに心臓に悪いです(笑)
その、ボナンザを「親友」と呼ぶ松本さんから対局前日に電話がありました。
「もしもし。今、ボナンザが会場に来たんですけど今までの数倍読むらしいですよ(嬉しそう)レーティングは2800だってー(嬉しそう)では頑張って下さいね」この人はどっちの応援なんだ
ちなみにレーティングとはインターネット将棋道場将棋倶楽部24でのもので最高レーティングが3084点ですからそれと300点も違わないことになります。シャレにならん・・・・ビビりました。
会場に到着。話を聞いてみると、やはり今日の機械はかなり高性能で早いらしい。
完全にビビりました。控室に戻り、とにかく落ち着こうと思ったのですがドキドキするしソワソワするしで軽パニック状態。考え出すと悪いことしか浮かんでこないので時間までテレビを見て気分転換しました。
対局開始。ボナンザの作戦はやはり四間飛車穴熊。
実はここまで予定通り。後手陣は凝っていますが色々と試した結果、この組み方が最も安全という結論に達していたので迷わずに進めました。うちのボナンザは図から▲6五歩△5三銀▲3三角成△同金直に▲7一角と打ってきます。
△7二飛で角銀交換になるので後手必勝。これを期待していたのですが今日のボナンザはやってきませんでした。後で聞いたところ、ボナンザは参考図の▲7一角を読んでいたものの、思いとどまったそうです(笑)
▲7一角をやってこなかったので「今日のボナンザはちょっと違うな」と感じました。
この▲6五歩には驚かれた方が多かったようですがボナンザと数多く指した僕にとっては予想通り。昔からこのような手はうまくいかないとされていますが、実際にとがめるのは容易ではありません。
51手目▲6六角は見たことがない類の手ですがなかなかの手。僕らでは浮かばない手で、コンピュータが将棋の技術向上に一役買ったと言えると思います。今後も、このような斬新な手を見せてくれるのでしょうね。それによって新手法、新手筋が増えていく可能性もあるのではないでしょうか。
ここです。次の▲6四歩。見た瞬間、思わず「なんだそれ?(なんだその緩手は)」と声が出ました。▲9一馬の利きが止まるし、▲6三歩成としても穴熊には響きません。「これはもらった」と思い熟考に沈みました。
数分後。「・・・実は▲6四歩は好手?」▲6四歩に対して△同歩は▲8一馬と桂と取られて図で単に▲8一馬とするのに比べると一手早く▲5四馬と引くことができます。よって△同歩とは取れません。
取れない以上、攻めるしかないのですが有効な攻めが見当たりません。本譜の△3五銀は▲6三歩成を期待したもの。▲6三歩成ならば△2五歩で後手優勢になります。と金を作るのは点数が高いと思い、誘ったのですがノータイムで▲3六歩と正解を指されてしまいました。
ボナンザは「▲6四歩と突いたら相手は攻めてくるしかない。それならば受け切れる」という読みで▲6四歩を選んだのです。人間なら「▲6四歩は馬道が止まって怖いから」という感覚的理由で考えない手です。
一連の手順を見て「今までのボナンザとは別人のように強い」ということが分かりました。
勝負の分かれ目はここでした。▲2四歩からの攻め合いは僕が勝ちだと読んでいたところへ▲2四歩がきました。
相手が人間ならば「この人△3九竜を見落としているんだろうなぁ」と思うところですがボナンザの終盤は信用しているので「△3九竜でこっちが勝つはずなのにくるってことは何かすごい手があるのだろうか・・・」となります。
同じ局面でも相手が人間かコンピューターかで感じ方が違うのです。
結論から言えばボナンザは△3九竜を軽視していたようです。コンピューターにもうっかりがあるのですね。コンピューターの終盤戦は完璧だと思っていたので少し安心しました(笑)
戻って、△1五金(図)には▲2七香△2六金▲同香△2七歩▲3八金打△2八歩成▲同馬(参考図)とされるのが嫌でした。
この手順は「飛を渡して銀も歩で取られるけど馬を引き付けて相手が歩切れだから良し」というかなり高度な手順なので指せないとは思いました。
89手目▲2四歩が敗着ということになりました。やはり、穴熊戦の距離感は苦手のようですね。
勝てて良かったです。本当にホッとしています。
高性能のマシンを使えば強くなるとは聞いていましたがここまで強いとは思いませんでした。今後もマシンの進化と開発者の方々の改良によってさらに強くなると思います。
まだまだ下と思っていましたがプロの足元まで来ているということを認めざるを得ません。今後、プロがコンピューターと指すというのは避けては通れない道になるでしょう。次の機会は更に注目が集まるのではないかと思います。
一ヶ月ほど前からこの日が近づくに連れてかなりのプレッシャーを感じていました。そのプレッシャーから開放されて今日はよく眠れそうです