厚みが4センチを超す一冊は、ずっしり重い。空から焼き尽くされた首都。その惨状をつぶさに収めた『決定版 東京空襲写真集』(勉誠出版)は、ページを繰るごとに胸が痛む。母親と赤ん坊が、炭化した塊となって重なり合うむごい写真もある

▼思い出すのは、かつて小欄に引いた詩の一節だ。〈骨と肉とはコークスとなり、かたくくっついて引離(ひきはな)せない。ああ、やさしい母の心は、永久に灰にはできないのだ〉。しかしこれは東京ではない▼日本にもなじみ深い中国の文人、郭沫若(かくまつじゃく)が重慶の惨事を言葉にとどめた(上原淳道訳)。日本軍が空爆を繰り返した都市である。だから日本の空襲被害は仕方ないと言うのでは、無論ない。無差別爆撃という蛮行が、第2次大戦で大手を振った

▼来日中のメルケル首相の国、ドイツも米英軍の爆撃を浴びた。手もとの本によれば、全土の死者は計60万人ともいわれ、うち約7万人は子どもだったとの数字もある

▼日本と同様に、降伏が濃厚だった国への執拗(しつよう)な空爆だった。中でもドレスデンの被害は甚大で、重なる遺体の写真は痛ましい。ドイツもまた無差別爆撃を行っている。そうした非人道の行きつく先に、広島と長崎の原爆があった

一夜にして約10万の命が奪われた東京大空襲から、きょうで70年。非業の死をとげた犠牲者を追悼したい。そして東京だけでなく、全国、世界で起きた空襲の惨禍を呼び覚まし、将来へつなぐ日として3月10日をとらえたい。炎の記憶を絶やさないために。


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