青い花

読書感想とか日々思う事、飼っている柴犬と猫について。

既視感のおやつ

2021-11-29 08:11:02 | 日記
『動物のお医者さん』の佐々木倫子の初期の短編に、『既視感のおかず』という作品があります。
我が家のおやつ作りも、その時に家にある材料で回しているので既視感が半端ないです。

以下、最近の既視感なおやつたち。


バナナパウンドケーキ。


この日は、バナナがあったんです。


あと、開封した1000ml生クリームを早めに使い切りたかったので、牛乳の代わりに使用しました。粗めに潰したバナナと蜂蜜が入っているので、生地がねっとり。
このままでは甘過ぎるので、レーズンの酸味でアクセントを付けました。


ココアとバナナのカップケーキ。
バナナを使い切りたかった。


こちらはバナナを潰さず、スライスして混ぜています。


ココアババロア。
我が家では、ジャンボプリンに次ぐ頻度の定番おやつです。
お菓子以外のお料理にも生クリームを使用したので、今回はこれですべて使い切りました。


ココア味の焼きドーナツ。
シリコン型に入れて、オーブンで焼きました。


アイシングをかける前はこんな感じでした。
もう少しココア粉を入れても良かったかもしれません。


蜜柑ゼリー。
開封したチェリーを早く使い切りたかったので。
小さなカップはお弁当用。お弁当に入れるので、ゼラチンではなく寒天ゼリーにしました。

バナナパウンドケーキから蜜柑ゼリーまで、材料が少しずつスライドしています。まるで伝言ゲームのような着地です。

以下は、最近買って気に入ったコンビニスイーツ。


セブンイレブンのカッサータ。
名前からしてイタリアぽいですね。マリトッツォの次はこれが来るんでしょうか。
材料を見たら、生クリーム、クリームチーズ、ドライフルーツ、砕いたアーモンドを用意すれば自宅で作れそうです。
この前収穫したレモンの使い道がまた一つ決まりました。

この商品みたいにドーム型に整える器具を持っていませんが、少し生地を固めにして、パウンドケーキ型に入れてからスライスして盛るのもよさそうです。


同じくセブンのモンブランアイス。
イタリア栗を使用しているそうです。
栗あん、バニラアイスの中にトロトロの栗ソースが仕込んであります。この栗ソースがとても美味しかった。最近のコンビニスイーツは数が多くて目移りしてしまいますが、これはリピ決定。




ローソンと生クリーム専門店「Milk」のコラボ。
まずは、Milkケーキを購入。
ふわふわのスポンジの上に、生クリーム・カスタード・練乳を合わせた特製クリームがたっぷり。


ケーキが美味しかったので、ほかの商品も追加購入。
生クリーム&カスタードのおやつコッペ、どらもっち、バナナ入り台湾カステラ。


生クリームがたっぷりです。
我が家は全員甘党なので美味しくいただきましたが、今時のおやつにしてはしっかり砂糖が効いているので、甘いのが苦手な人は胃がもたれるかも?
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『燃えよ剣』観てきました

2021-11-22 08:31:40 | 日記

先週末にようやく『燃えよ剣』を見ることができました。
本当だったら去年の五月に公開だったのですよね。公式の動きをちゃんとチェックしていないので憶測でしかありませんが、五月公開は土方歳三の誕生日と命日にかけていたのでしょうか。
それはともかく、その後コロナの影響で公開延期になってしまって。それから感染者数が増える一方で、本当に劇場で公開できるのか心配していました。なので、十月十五日に公開が決まった時はホッとしましたし、その週末には見に行くつもりでいたのです。が、予定が合わなくて、結局封切り日から一ヵ月も経ってしまったのでした。

我が家は家族全員、初めての司馬遼太郎が『燃えよ剣』だったので、この映画はどうしても家族一緒に見に行きたかったのです。読んだのは、娘が中一、私も中一か中二の時。夫は社会人になってからです。
ちなみにコロナが蔓延してから初めての映画館鑑賞となりました。
朝一の回で、公開開始から一ヶ月以上経っている割にはそこそこの客の入りで、ロビーで知り合いに声をかけられたりしました。

おうちでのんびり鑑賞もいいですが、やはり殺陣は大きなスクリーンが映えます。
私が一番見入ったのは芹沢鴨の暗殺でした。
池田屋事件とか油小路事件とか、他にもっと見栄えのする殺陣があっただろと突っ込まれそうですが、なかなか凄惨な死にざまで、芹沢鴨の強キャラ感と新選組の暗部がよく出ていたんですよ。
芹沢が酔って寝ているところを、上から襖で抑え込んで刀でブスブス刺しまくるんですけど、何が何でも此奴の息の根を止めるんだという鉄の意志を感じました。襖どかしてもまだ生きてるし、芹沢鴨ホントに怖い。正攻法では絶対に潰せる気がしません。
その少し前に芹沢の勢力を削ぐために、彼の片腕の新見錦に切腹を強要したシーンも結構なエグさでした。それも含めて芹沢ってよほどの脅威だったのだなと。
その一方で、凶暴な印象が強い芹沢が、八木家の子供たちと遊んだり、教養を伺わせるシーンも差し込まれていて、全体的に駆け足な印象だった本作品の中で、かなり丁寧に描かれている人物だと思いました。
土方から芹沢の暗殺計画を告げられた時に、沖田が「芹沢先生、かわいそうだな」とフワっとした口調で言っていましたけど、本当にかわいそうな男でしたよ。

もちろん、一番丁寧に描かれていたのは、主役の土方歳三です。
先ほど全体的に駆け足だったと言いましたが、二時間半ほどの映画の中で、新選組が発足した理由や滅んだ理由を視聴者に理解させるためには、当時の時勢を説明する必要があります。そこに関係する人物の多さを考えたら、どうしても早回しっぽくなってしまうのは仕方がありません。
それでも尺的に入れきれないエピソードは多いので、「清河八郎って誰?」くらいの知識で見ると、意味が解らないかもしれない。そこはもう、史実を扱った映画なのだから、事前にその時代の予備知識をある程度頭に入れていくべきなのだと思います。
駆け足な分、邦画にありがちなベタベタした感情の垂れ流しが少なく、最後まで倦まずに見れたので、そこはまぁいいかなと思いました。
で、土方を語る上では、彼が武州多摩の百姓だったことと、あの地域が天領だったことは欠かせません。そのために原作でも映画でも武州時代はそれなりの尺をとって描かれています。
本作中では土方と沖田総司の会話が多く、常に熱く前のめりな土方とフワっとした物腰の沖田の対比が面白くて、燃えよ剣ファンにこの二人の組み合わせが人気なのも納得できました。
土方の人生には、近藤勇も欠かせませんね。
娘が劇場前の広告を見ながら「近藤さんがめっちゃ近藤さん」と言っていましたが、ビジュアルだけじゃなく、佇まい全体が燃えよ剣の近藤勇でした。
近藤が新政府軍に投降することを決めたシーンで、腕を掴んで引き留める土方に「もう解放してほしい」と言うんですけど、あんな柔らかい口調で「トシ」と呼ばれたら、手を放してしまうよなぁと。うちの娘は、このシーンから最後までずっと泣きっぱなしでした。
近藤、土方、沖田には、彼らにしか出せない空気感があって、彼らの末路を知っている者として、最初から最後までそこに切なさを感じていました。あんなにずっと一緒だったのに、死ぬときはバラバラなんですよ。
特に一番最後まで生きた土方の胸中を思うとしんどさしかない。
近藤、沖田と死に別れて、永倉、原田といった試衛館メンバーとも袂を別って。北へ北へと転戦していくうちに、古参隊士がどんどん欠けていく。この時期の土方は、何を支えに戦っていたのでしょうか。
また芹沢の暗殺に話が戻りますが(私、芹沢好き過ぎるな)、新見を切腹に追い込む時に、土方が沖田に「新見と芹沢は、俺と近藤さんみたいなものだから」と説明するんです。
芹沢にとって、新見の喪失がどれほどのダメージになるか分かっていて、その効果を狙っているんですね。土方にとって、近藤の死は自分が死ぬより辛いことでしょうから。土方のそういうところが好きです。

あと、新選組の隊服について。
新選組といえば浅葱のダンダラが有名ですが、原田監督が「幹部クラスはダンダラを着なかった」という説を採ったそうで、黒を基調としたデザインになっていました。これが動きやすそうで格好良かったです。ダンダラを着なかった説は、子母澤寛の新選組三部作に、当時の新選組を知っている人たちの証言として載っていたと思います。
原田左之助がゲームキャラみたいに派手なビジュアルだったのはこの映画オリジナルだと思いますが、いいアクセントになっていました。

映画を見終わったら、ちょうどお昼時になっていました。
この日はテラス席でハンバーグを食べてきましたよ。


夫は和風ハンバーグセット。
写真に写っていませんが、飲み物はグレープフルーツジュースでした。


娘はチーズハンバーグセット。
飲み物は林檎ジュース。


私はアボカド添えハンバーグセット。
飲み物は柚子ソーダ。

ご飯を食べながら、燃えよ剣の感想を言い合いました。
結果、我が家では山崎烝が人気なことが判明。
監察というポジションがまず魅力的ですよね。鳥羽伏見から江戸に逃れる船上で、死期を悟った山崎が「水葬にしてください。塩漬けは嫌」と剽軽な口調で言っていたのも忘れられません。
それと、密偵の中島登が渋かった。
新選組隊士のなかで、中島はそんなに有名な人物ではないけど、彼は土方とともに蝦夷まで行って戦っています。

ご飯を食べた後は、娘がアクセサリーを見たいと言い出したので、雑貨屋に行きました。


ポニーフックとイヤリングです。


カルディでおやつも買いました。マリトッツォとその他いろいろ。
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骸骨

2021-11-19 08:34:25 | 日記
ジェローム・K・ジェローム著『骸骨』

この本は完全にジャケ買いならぬ表紙買いだった。
私の場合、未知の作家の作品を手に取るか否かは、書評よりも装丁が決め手になる。

「食後の夜話」「ダンスのお相手」「ディック・ダンカーマンの猫」「蛇」「ウィブリイの霊」「新ユートピア」「人生の教え」「海の都」「チャールズとミヴァンウェイの話」「牧場小屋(セター)の女」「人影」「二本杉の館」「四階に来た男」「ニコラス・スナイダーズの魂、あるいはザンダムの守銭奴」「奏でのフィドル」「ブルターニュのマルヴィーナ」の17編の短編と訳者あとがきが収録されている。

副題に幻想奇譚とあり、また国書刊行会ということもあって、きっと気に入るだろうと思った。表紙だけでなく、中の挿絵も洒落ていて雰囲気がいい。紙の本を手に取る醍醐味を十分に味わえる。

肝心の収録作はというと、正直言うと途中までは、私にはあまり向いていない作家かもなぁと思いながら、ノロノロと読み進めていたのだった。
バリエーションの豊富な作家なぶん、個人的には当たり外れが大きかった。ハマる作品には魂が持っていかれるほど引き込まれるが、そうではない作品は語りがやや煩く感じられたのだ。

あとがきを読んでみたら、ジェローム・K・ジェロームの代表作は、『ボートの三人男』というユーモア小説だそうで。なるほど。
ユーモア小説じたいは割と好きなジャンルだ。もしかしたら、本書より『ボートの三人男』の方が楽しめるかもしれない。
否、本書も十分良書だと思う。イラチな私が、自分向きではないかもと思いながらも、途中で投げ出さなかったくらいには引き付けられるものがあった。ただ、私が期待していた幻想奇譚とは、少々異なる作品が多かったというだけで。

ユーモア小説の書き手だけあって、本書の収録作は風刺的な語りが多い。
特に最初の「食後の夜話」は、序文でステロタイプな幽霊譚への皮肉を効かせたユーモラスな語りが延々と続く。そのあたりが、私の好むタイプではないというか。私の好きな幻想奇譚とは、孤独な幻視者によるものが多いので、怖くもなければ美しくもない饒舌な幻想奇譚というものを読み慣れていないのだ。
「ダンスのお相手」は、私の大好きな人形の恐怖譚ということで期待していたのだが、このジャンルの至高は、ホフマンの「砂男」だなぁと。
あと、「蛇」は、佐野洋の短編に似たような内容の作品があった気がする。もちろん「蛇」の方が先に出ているのだけど、ほかにも本書収録作の中には、今となっては使い古されたアイデアのものが多かった。
使い古されたアイデアには、使い古されるだけの王道の風格があるものだけど、最初の数編からは、古雅の域には達していない、何というか生乾きな中途半端な古さを感じたのだ。

と、途中までは半ば意地で読んでいたようなものだったが、「海の都」でようやく私が求めていたものに出会えた気がした。
この短編は、ディーン人の海賊がイングランドに侵攻していた時代を舞台としている。
人間の愚かさや栄華の儚さと荒涼たる自然の描写との配合が効いている。太古の伝説のように骨太な味わいだ。読んでいる間中、息も出来ないほど吹き荒ぶ潮風を感じた。
この作家の作品は、都会より地方を舞台にしたものの方が私の好みに合う。この物語を美しい挿画の絵本に仕上げて欲しい。

その大修道院と海との間には、かつては七つの塔と四つの立派な教会の立つ町があった。
贅沢な商い物が行き交い、典雅な装飾の施された建造物や水路の間には様々な異国の言葉が溢れ、町はたいそう活気づいていた。だが、町は今では海底20尋の深みに横たわっている。

富の香りに引き寄せられたデーン人と町を治めていたサクソン人との戦いは熾烈を極めた。長い戦いの末、疲弊した両者はこの地で友好的に暮らすことで同意した。
宴が催された。
かつて互いに向き合って戦った男たちは、並び座って杯を交わした。彼らは互いを友と心得、肩を組んだ。宴が終わると男たちは、ともに横になって眠った。
その夜、町に邪な声が流れた。

“我らのところへやって来て、我らの土地から分け前を得ようとしているのは誰だ。我らの道の石が赤く染まったのは奴らが殺した妻や子供たちの血ではなかったか。肉とワインで重く横たわっている奴らに今こそ襲いかかろうではないか。奴らは一人たりとも逃げられまい。そうすれば、奴らからも、奴らの子供たちからも、もう傷つけられることはなくなるのだ”

その声は町の住人の心を圧倒した。
この町の美と富のすべては、サクソン人が築き上げたものだ。なぜ、侵略者どもと共有しなければならないのか。謎の言葉は、サクソン人の心の奥に押し込められた共通の鬱屈から発生したのかもしれない。
忽ち殺戮が始まった。
サクソン人は、デーン人の退路を塞いだ。デーン人は、長い夜を通して大修道院の扉の前で叫び続けた。

大修道院長は跪いて神に呼び掛けた。

“神よ、聞き給え。答え給え”

その呼びかけへの答えだろうか、町は激しい嵐に襲われた。
無慈悲な津波が、恐ろしい速度で町の富と美と生活のすべてを飲み込んでいった。町で一番高い塔は、もはや高い塔ではなくなった。町の人々は迫りくる海水から逃げ出したが、逃げおおせた者は一人もいなかった。七つの塔と四つの教会、たくさんの通りと波止場のある町は海底に沈み、大修道院だけが残った。


恐ろしさでは、収録作のなかでは、「牧場小屋(セター)の女」が抜きん出ていた。
こちらは、ノルウェイのフィヨルドがある地方の特色を生かした、身も心も凍り付くような恐怖譚だ。この作家、やはり都会の描写よりも険しい自然の描写の方が上手い。

ノルウェイの高地に馴鹿狩りに来た二人のイギリス人男性、マイクルと私が、ガイドのノルウェイ人とともに山中で道に迷った。
三人は凍死寸前のところで丸太小屋に辿り着くが、その小屋に入った途端、ガイドは悲鳴を上げて、夜闇へと駆け去ってしまった。私たちが聞き取れたのは、「牧場小屋(セター)の女だ!」という金切り声だけだった。このあたりの迷信か伝説だろうか。
私たちがストーブに火を通すと、小屋の中の様子が見て取れるようになった。
それは古い牧場小屋で、奇妙な獣や悪霊の木彫りが黒ずんだ梁の上に置かれていて、楣の上にはルーン文字でこんな言葉が記されているのだった。

“ハールガゲルの時代にフントがこれを建てた”

家具のなかには小屋の壁と同じくらい古そうなものもあるが、もっと後の時代に持ち込まれたと思しきものも混ざっていた。この小屋には少なくとも二つの時代の人間が暮らしていたらしい。

最後の住人は、この場所を突然放棄したようだった。
生活用品は使っていた時のまま、錆びて汚れに覆われていた。読みかけの本が開いたままテーブルに伏せられ、褪せたインクで記された跡の残る大量の紙が散らばっていた。オーク材のチェストの上には、黄色の手紙が山のように詰め込まれていた。日付けは様々で、四カ月に及んでいた。それらとともに、大きな封筒が一つあって、表にはロンドンの住所が記されていたが、今ではすっかり見えなくなってしまっている。

私たちは好奇心に駆られて手紙を読んだ。
手紙の主は、療養のためにこの小屋を借りた都会の人間らしい。若い妻のみを伴い、使用人は連れて来ていない。
数通の手紙に記されていた、手紙の主と彼の妻、そして、それより遠い昔に詩人フントと彼の妻が辿った恐ろしい運命。

手紙には、手紙の主が地元民から聞いた話として、フント夫妻の最期が記されている。

夜ごと、妻が寝ている間に。フントのもとを出稼ぎ労働の女が訪れていた。
狭い小屋の中でのことだ。じきに妻は女の存在に気づいた。女が小屋を訪れるのには、必ず谷間の橋を渡らなければならない。妻は夫の目を盗んで、橋に細工をした。女が橋の上を歩くと、丸太が砕け、女は冷たい奔流に飲まれてしまった。
しかし、女は復讐を遂げないまま消えたわけではなかった。
その冬、ある男がフィヨルドでスケートをしていると、氷の中に妙な物体が埋まっているのを発見した。それは、二体の遺体であり、一人がもう一人の喉を絞めていた。彼らはフント夫妻だった。

手紙は途中で終わっているので、手紙の主夫妻が、どのように牧場小屋での生活を終えたのかは不明だ。
だが、手紙の主夫妻は、遠い昔にフント夫妻が辿った道をほぼトレースしている。特に、地元民からフント夫妻の物語を聞いて以降、その傾向が強くなっている。
外界から遮断された山小屋にいるのは、自分と妻と、もう一人、正体の分からない女の気配。
フントの暮らしていた時代と違い、この小屋は地域から完全に孤立している。フント夫妻の死以降、この小屋は禁忌の場になっており、誰も近づかないのだ。それなのに、手紙の主のもとには、夜ごと謎の女が訪ねてくる。
男の精神は一通、二通、三通と手紙を重ねていくうちにみるみる悪化していき、妻と女の悪霊との区別がつかなくなっていく。そんな夫に、妻は猜疑の目を向ける。
男は女の霊の訪れる夜より、妻と二人きりの昼が怖い。互いを愛しい人と呼び、やさしい手つきで髪を撫でる。だけど、瞳は石のように冷たく、愛を語る会話はもはや真似事でしかない。

男はやがて、自分があのフントのように妻の首を絞めてしまうことを予感している。どうしようもなく、妻が憎い。片方の腕で彼女を強く引き寄せる一方で、もう片方の腕で強く咽喉を押したら、その骨の折れる音が聞こえるまでどれくらいかかるだろうか。

“この荒涼とした孤独の地で、僕も荒涼とした心を抱くようになった。愛と憎しみという太古の情熱が僕のなかで蠢いている。それは激しく無慈悲で力強く、後の世の君たちの理解が及ぶ範囲のものではないだろう。何世紀にもわたって培われてきた文化は僕から剥がれ落ち、薄い服のように山の風に吹かれてひらひらと飛び去ってしまった。民族の古い残忍な本能が剝き出しになっている。いつの日か、僕は妻の白い咽喉に両手の指を絡ませるだろう。(略)そこで、僕は前へ前へ身をかがめて彼女の紫色の唇にキスをする。そして下へ下へ、驚く海鳥とすれ違って、溝を満たす白い水煙を抜けて、のぞき見をしている松の木を通り過ぎ、下へ下へ下へ、僕たちは一緒に突き進むだろう。フィヨルドの水の下に横たわって眠るものを見つけるまで”

冒頭の私とマイクルが遭難するまでの件以降は、謎の男の遺した手紙によってストーリーが展開していく。
一人称で一方的に奇怪な物語が進み、それを読んでいる第三者には疑問を投げかける術がない。そして、手紙は唐突に未完のまま終わる。手紙を書いた人物と、それを読んでいる人物、そして読者の私。それぞれの間に何の関係性もなく、それでいて、他人のプライバシーを盗み見ているような、妙な後ろめたさはある。

それが、人間であれ悪霊であれ――手紙の主がセターの女と思っていた者は、本当にいたのだろうか。
あの小屋には、彼ら夫妻しかいなかったと考える方が、自然な気がする。そのくらい、謎の女の描写より、夫妻の息の詰まるような偽りの愛の描写の方が生々しかった。男は女の霊と妻の区別がつかなくなったのではなく、最初から二人の女は一人だったのだ。
これは、太古より続く愛と憎しみの物語。
吹き荒ぶ雪嵐とか、凍えるような谷川の奔流とか。キスした時の冷たい唇とか。小屋に飾られた呪術的なオブジェとか。作中のあらゆるものが読む者の精神を圧迫する怪奇小説の力作だ。
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レモンの収穫2021

2021-11-15 08:44:54 | 日記



今年も我が家のレモンが実りました。


収穫!!
ざるから零れそうです。


今年は35個でした。
我が家のレモンは、実の数が年によってかなり異なります。一番多かった年は2018年で42個でした。


と思っていたら、数日後に採り残していたレモンを三つ発見。
今年のレモンは、合計で38個でした。




さっそくレモンマーマレードを作りました。
レモンの実約600gに対して砂糖1㎏です。火を入れるとレモンから大量に汁が出てくるので、水は一切使いません。


冷めてから瓶づめ。


蜂蜜レモンも。

マーマレードと蜂蜜レモンは、そのままパンに載せると少々酸っぱいので、主にお菓子作りや肉料理の材料になります。

残りの実は、すぐに使う分は新聞紙にくるんで野菜室に入れ、それ以外は冷凍庫で保存しています。
レモンが冷凍保存できることは最近知りました。おかげで大慌てて使わずに済みます。
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冬の鉢花2021

2021-11-08 08:44:52 | 日記
そろそろ寒くなってきたので、玄関周りの鉢花を植え替えました。


ガーデンシクラメンとアリッサムの寄せ植え。


キンギョソウ。


少し前までは白が標準だったアリッサムも、最近は色んな色が出回るようになって、寄せ植えのサポート役としてさらに重宝するようになりました。




ビオラ。


カスミソウとヘデラの寄せ植え。


この二色のカスミソウは去年も買ったのですが、今年はヘデラと組み合わせてみました。

どの鉢もまだ植え替えてから一週間ほどしか経っていないので嵩が小さいですが、冬が本番になるころにはこんもりと育っていると思います。


ローズマリーとヘデラ。
このヘデラは何年もハンギング鉢に植えっぱなしになっていたものです。
今回ローズマリーの鉢にお引越しさせたのですが、根っこがガチガチに固まっていたので押し込むのに一苦労しました。




夏の花であるランタナとハイビスカスがまだ蕾をつけています。
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