水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百八十九回)

2011年01月01日 00時00分01秒 | #小説
  あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百八十九
 その夜の私は少し興奮ぎみで寝つけなかった。煮付(につけ)先輩の話について考えていたから・・というのでもなかったが、心のどこかで、私が大臣か…などと北叟(ほくそ)笑む自分がいたのかも知れない。先輩の話は夢物語などではなく、厳然とした事実なのだが今一、シックリしなかった。このことを久しく話していない禿山(はげやま)さんに云ってみようか…などと、寝つけぬまま思ったりした。ベッドを抜け、カレンダーに目を遣(や)る。最近、禿山さんを監視室で見た日付からすると、偶然なのだが上手い具合に今夜は深夜勤をされている番だった。ということは、明日の早朝なら出会える訳だ。目覚ましを四時にセットして眠ることにした。
 意識した予定を抱えて眠ると、やはり妙なもので、眠れなくとも時間には目覚めるものである。しかも寝起きとともに身体が勝手にリズムよく動くのだった。そして、いつの間にか私は監視室の中にいて、禿山さんと話していた。時計のセットからわずか六時間ばかり先のことである。
「どうされました? 何ぞありましたか。…そういや、いつぞやのお話から随分ですな」
 例の赤みがかった血色のよい笑顔と、よく照かった丸禿頭は、やはりこの朝も存在した。
「はあ、そうなりますね…」
 私は愛想笑いをして返していた。

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