水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百八回)

2011年01月20日 00時00分00秒 | #小説

    あんたはすごい!    水本爽涼
                                       
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   
    第ニ百八
 受話器を握ったとき、もうこれは呼び込み以外にはないだろう…とは思っていた。案の定、呼び込みだった。あとから聞いた話だと、議員のめぼしい方々には取り巻きの報道陣が詰めかけているようだったが、幸いにも無名の私には、そうした気忙(きぜわ)な心配ごとはまったくなかった。ただ、タクシーで官邸に到着して以降は完璧に有名人扱いで、ラジオ、テレビ、新聞を賑わせることになってしまった。決して私自身が望んだことではなく、玉が良かれ、と判断した結果なのだからどうしようもない。私は平々凡々と暮らしたかったのだが、玉によってある意味、凡人としての人生を歩めなくなったのだから、名声を馳せて出世することの比較では痛し痒(かゆ)しと云えるだろう。
 さて、皇居での認証式で、あの超有名な陛下ともお出会いし、正式に農水大臣のポストに就任した私は、小菅(こすが)内閣の初閣議に臨んだ。私は末席を汚(けが)す程度の存在だったから、小菅総理の席からは、かなり遠かった。なにやら語っておいでのようだったが、正直云って、あまり聞きとれなかった。というのも、心ここにあらず、だったことと、急に玉のお告げが聞こえたためである。
『どうでしたか? もう少しあとで、と思いましたが、とり急ぎ、お祝いだけ云わせてもらおうと、寄せて戴(いただ)いたようなことです』
 もちろん、お告げの声は他の閣僚達には聞こえていなかった。


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