水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百十七回)

2011年01月29日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百十七
 済入会(さいにゅうかい)病院へ入ると、すでに煮付(につけ)先輩は来ていた。
「よかったよ。命に別状はないそうだ。それに、全治三週間の軽傷らしい。これは奇跡だと先生が云っていた。お気の毒に運転手は即死だったそうだが…」
 煮付先輩の言葉はいくぶん暗く沈んでいた。病院内は深夜帯のせいか外来もなく、入院患者も寝入っているようで静まり返っていた。
「もう大丈夫だ。帰っていいぞ、塩山。私もご家族に挨拶だけして早く帰る。騒がせてしまったな…。いや、動転してたからな、すまん」
 先輩は素直に謝(あやま)り、ペコリと頭を下げた。
「いやあ…。大したことにならず、よかったですよ。マスコミに騒がれなかったのが何よりでした」
「そうなんだよな。この時間だったからな。日中だったら…と思うと、ゾッとするよ」
「そうてすねえ…。それじゃ私はこれで…。総理に、よろしく申してください」
「ああ…、来たことは伝えておく」
 私はマンションへとUターンした。
 次の日の朝からマスコミ各社が騒ぎだしたが、味噌漬(みそづ)さんの官房長官談話が出されただけで、会期中でなかったこともあり、大層な騒ぎとはならなかった。ラジオ、テレビ局や新聞各紙、週刊誌、雑誌なども三日ほど騒いだだけで、話は立ち消えとなった。日本人の熱しやすく冷めやすい体質が顕著(けんちょ)になった事件だった。

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