あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百十七回
済入会(さいにゅうかい)病院へ入ると、すでに煮付(につけ)先輩は来ていた。
「よかったよ。命に別状はないそうだ。それに、全治三週間の軽傷らしい。これは奇跡だと先生が云っていた。お気の毒に運転手は即死だったそうだが…」
煮付先輩の言葉はいくぶん暗く沈んでいた。病院内は深夜帯のせいか外来もなく、入院患者も寝入っているようで静まり返っていた。
「もう大丈夫だ。帰っていいぞ、塩山。私もご家族に挨拶だけして早く帰る。騒がせてしまったな…。いや、動転してたからな、すまん」
先輩は素直に謝(あやま)り、ペコリと頭を下げた。
「いやあ…。大したことにならず、よかったですよ。マスコミに騒がれなかったのが何よりでした」
「そうなんだよな。この時間だったからな。日中だったら…と思うと、ゾッとするよ」
「そうてすねえ…。それじゃ私はこれで…。総理に、よろしく申してください」
「ああ…、来たことは伝えておく」
私はマンションへとUターンした。
次の日の朝からマスコミ各社が騒ぎだしたが、味噌漬(みそづ)さんの官房長官談話が出されただけで、会期中でなかったこともあり、大層な騒ぎとはならなかった。ラジオ、テレビ局や新聞各紙、週刊誌、雑誌なども三日ほど騒いだだけで、話は立ち消えとなった。日本人の熱しやすく冷めやすい体質が顕著(けんちょ)になった事件だった。

第ニ百十七回
済入会(さいにゅうかい)病院へ入ると、すでに煮付(につけ)先輩は来ていた。
「よかったよ。命に別状はないそうだ。それに、全治三週間の軽傷らしい。これは奇跡だと先生が云っていた。お気の毒に運転手は即死だったそうだが…」
煮付先輩の言葉はいくぶん暗く沈んでいた。病院内は深夜帯のせいか外来もなく、入院患者も寝入っているようで静まり返っていた。
「もう大丈夫だ。帰っていいぞ、塩山。私もご家族に挨拶だけして早く帰る。騒がせてしまったな…。いや、動転してたからな、すまん」
先輩は素直に謝(あやま)り、ペコリと頭を下げた。
「いやあ…。大したことにならず、よかったですよ。マスコミに騒がれなかったのが何よりでした」
「そうなんだよな。この時間だったからな。日中だったら…と思うと、ゾッとするよ」
「そうてすねえ…。それじゃ私はこれで…。総理に、よろしく申してください」
「ああ…、来たことは伝えておく」
私はマンションへとUターンした。
次の日の朝からマスコミ各社が騒ぎだしたが、味噌漬(みそづ)さんの官房長官談話が出されただけで、会期中でなかったこともあり、大層な騒ぎとはならなかった。ラジオ、テレビ局や新聞各紙、週刊誌、雑誌なども三日ほど騒いだだけで、話は立ち消えとなった。日本人の熱しやすく冷めやすい体質が顕著(けんちょ)になった事件だった。