水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百五回)

2011年01月17日 00時00分00秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百五
 ひと月が流れ、ついにその時が来た。えっ! どんな時なんだ? と疑問に思われるお方もおられると思うので、掻(か)い摘(つま)んで説明すれば、煮付(につけ)先輩に打診された大臣登用の一件である。小菅(こすが)内閣は先輩が云っていたように改造を迎えようとしていた。当然、その半月ばかり前に先輩からの電話があり、心づもりしておいて欲しい…と、釘を刺された私だった。
「そうか…。まあ仕方なかろう。君の戦力を失うのは今の我が社には辛(つら)いが、それもまあ在任中だけ、ということだから我慢しよう。日本全体の第一次産業の将来、ひいては食糧問題を考慮に入れれば、我が社の利益のみ考えている訳にもいくまい…」
 専務室の中で、私は鍋下(なべした)専務に事の仔細を報告していた。
「はい…。それまでは無報酬の外部顧問として、一応は我が社を離れますが…」
「大臣規範だったかな? そういう難しい決めがあるとは知らなかったよ」
「いや、私も玉に、いえ、時たま、国会中継を観るくらいで、政治には疎(うと)かったもので、まったく知りませんでした」
 危うく口が滑りそうになったが、なんとか私は云い逃れた。専務も幸い気づかなかったようで、事なきを得た。

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