あんたはすごい! 水本爽涼
第ニ百十三回
私の心配をよそに、大臣の職務は順調に推移し、かつて輩出せぬ有能大臣…と世の名声を博(はく)した。フラッシュ・バックしたように、脳裡に浮かんだ断片的映像の数々。その中の一枚に出た国連本部で、現実に私は演説をぶつことになった。今まで演説の原稿など書いたこともなく、まあ、下手でも要旨だけは書いておこうか…などと困惑ぎみだった。そんなとき、事務次官の海鮮(かいせん)君がほぼ出来上がった原稿を持って大臣室へ現れた。
「大臣、これをお目とおし願い、お読み戴(いただ)ければ…」
政界と官界の間には暗黙の了解や慣例が成り立っているのだろう。海鮮次官は多くを語らず大臣室をあとにした。その中の数枚を乱読すると、ほぼ云いたいことは書かれていたので、私は自分で作った原稿の要旨をそこへ書き足し、私風になんとか纏(まと)めた。ニューヨークの人となったのは、それから二日後だったろうか。案ずるほどのこともなく、なんなく演説を終えた私はテンションを高めて有頂天になっていた。私が国連本部で演説したニュースは国民の目や耳にどのように映ったのだろうか…と思えた。世界の新聞、テレビ報道が私の演説を斬新(ざんしん)で人類の食糧危機を未然に防ぐ快挙だ、と大絶賛した。私はこの段階で、世界で脚光を浴びる人々の仲間入りを果たしたのである。私が外出するたびに、どこからともなくフラッシュが光るようになったのは、この頃からだった。
第ニ百十三回
私の心配をよそに、大臣の職務は順調に推移し、かつて輩出せぬ有能大臣…と世の名声を博(はく)した。フラッシュ・バックしたように、脳裡に浮かんだ断片的映像の数々。その中の一枚に出た国連本部で、現実に私は演説をぶつことになった。今まで演説の原稿など書いたこともなく、まあ、下手でも要旨だけは書いておこうか…などと困惑ぎみだった。そんなとき、事務次官の海鮮(かいせん)君がほぼ出来上がった原稿を持って大臣室へ現れた。
「大臣、これをお目とおし願い、お読み戴(いただ)ければ…」
政界と官界の間には暗黙の了解や慣例が成り立っているのだろう。海鮮次官は多くを語らず大臣室をあとにした。その中の数枚を乱読すると、ほぼ云いたいことは書かれていたので、私は自分で作った原稿の要旨をそこへ書き足し、私風になんとか纏(まと)めた。ニューヨークの人となったのは、それから二日後だったろうか。案ずるほどのこともなく、なんなく演説を終えた私はテンションを高めて有頂天になっていた。私が国連本部で演説したニュースは国民の目や耳にどのように映ったのだろうか…と思えた。世界の新聞、テレビ報道が私の演説を斬新(ざんしん)で人類の食糧危機を未然に防ぐ快挙だ、と大絶賛した。私はこの段階で、世界で脚光を浴びる人々の仲間入りを果たしたのである。私が外出するたびに、どこからともなくフラッシュが光るようになったのは、この頃からだった。