水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第ニ百一回)

2011年01月13日 00時00分02秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百一
「こんな話ができるのも、ここだけですね」
「はい…。この店でも早希ちゃんは全然、信じてませんからねえ、今でも…」
「人前で話せば二人は変人ですよ、ははは…」
 ママは愛想笑いをしながら水割りのグラスを私の前へ、そっと置いた。
「それはそうと、時空を越えたことが、よくお分かりになられましたね?」
「ははは…、玉がそう申したまでです。あなたにも、お告げがあったでしょ?」
「ええ、それはまあ…。ところで、沼澤さんは私と同じ時空にいらっしゃるんですか?」
「いえ、私は私で違う時系列なのです。ただ、世間の人々とは違う時空ですがね」
「ということは、過去に私のようなハプニングに遭遇されたということでしょうか?」
「はい、そういうことです…」
「外国で優雅に暮されている方もそうですか?」
「「いえ、あの方は地位、名誉、お金だけの人でした。玉が時空を動かすのは、すごい人だけなのですよ。この私が云うのもなんですが…」
 ママは二人の会話を、まるでテレビの漫才のようにニタついて聞いていた。ただ、口を挟むことはなかった。早希ちゃんは今日も携帯を弄(いじく)って、画面に釘づけだった。

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第三十三回

2011年01月13日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第三十三回

 二年も前は恒例の梅見が代官所の招きで行われていたが、それも昨年から沙汰止みとなり、長谷川や鴨下、左馬介の三人にとっては何の楽しみもなくなり、興が削がれていた。代官所としても、過去に幻妙斎の恩顧を受けたとはいえ、高が三人の招待では趣向がない故か…と、思われたのだが、内情はそうではなかった。幕府から質素、倹約の触書が全国各地に発せられていたのである。世に云う享保の改革の始まりであった。樋口半太夫も代官として、当然のことながらその触書を受け取っていた。その次男坊である樋口静山は、当然そのことを察知していたが、それを堀川へ伝える必要もないから、己が胸、一つに納めている。だから、堀川の三人は全く触書のことを知らず、梅見が沙汰止みとなった訳は、現場衆が三人に減ったからだろう…と勝手に思い込んでいた。ただ、別棟に住まう客人身分の者達は、樋口のように影の存在となっていた。というのも、道場の決めの一に、客人に上がった者は、決して現場の門弟(現場衆)と顔を合せてはならない…という一条が盛り込まれていたから、それが拡大解釈されるに及んだのである。無論、それは場内のみの話だ。そういうことで、長沼、塚田、山上の三人が如何なる暮らしをしているかを左馬介達は知らないし、逆に長沼達も同様である。


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