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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第百九十九回)

2011年01月11日 00時00分02秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第百九十九
「今日は何曜日だった?」
「えっとねぇ~…。バーゲンだから土曜」
「そっか…土曜か」
 やはり、みかんでも時空は十日先にあった。煮付(につけ)先輩が来社したのが火曜、私が禿山(はげやま)さんと早朝に話し、部長席で記憶をなくしたのが翌日の水曜だから、私と同じ時空なら水曜の筈であった。ママは沼澤さんが寄られるから…とメールしてきたからのだから、火曜か土曜なのだ。それを見逃していた。もちろん、沼澤さんがみかんへ寄るのは火、土曜日に限ったことではないだろう。しかし、私が知る限りのデータによれば、眠気(ねむけ)会館の教室を終えてみかんへ寄るというのが沼澤さんがとる、いつものパターンだった。ということは、ママのメールを受けたとき、水曜だから沼澤さんが寄るというのは妙だ…と、まず気づくべきだったのだ。お告げにより、私だけが十日間、過去の時空にとり残されたんだ…と知ったが、やはり、みかんも十日先の時空に存在していた。
「なに考えてるの?」
「えっ? …いやあ、なんでもないさ」
 早希ちゃんがコップに水を入れてカウンターへ置いた。水を置いてくれるようになったのは嬉しかったが、消えた十日間というのが、どうも私の心に蟠(わだかま)っていた。

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残月剣 -秘抄- 《惜別》第三十一回

2011年01月11日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第三十一回

 後から分かったのだが、蓑屋の主は太兵衛、奉公人の店娘はお末と云った。太兵衛は、軒下の床几に座る左馬介へ徐(おもむろ)に近づいた。
「これはこれは…。いつぞやの…」
「あっ! ご亭主。その節は丁寧にお教えを戴き、誠に有難うございました。お蔭様で樋口さんに目通り出来ました。そのお礼に…」
「態々(わざわざ)、御丁重に…。そのようなことを、お気遣いされなくても結構でございますのに」
 太兵衛は腰を低くして、ペコリペコリと幾度もお辞儀をした。これでは、どちらが礼を云っているのか、遠目では誰にも分からない。
「ここでお世話になったのは、実のところ、これで二度目なのですよ。一度目は、雨の日に傘をお借り致しました…」
「ああ…、そのようなことが有ったようでございますな。お末から聞き及んでおります」
 あの娘…名をお末というのか…と、左馬介は思った。この時点で左馬介は、すっかり逆上(のぼ)せて、お末に惚の字だった。だが、武士の面目というものがある。それに、今は堀川の門弟として修業中の身なのだ。気があるなどとは噯気(おくび)にも出せないし、また想いの丈を打ち明けることも許されぬ…と、左馬介は心を引き締めるのだった。


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