幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第八回
ここは霊界である。上山と別れ、人間界へ戻った幽霊平林は、さっそく霊界番人を呼び出すことにした。人間界と違い、時間経過という煩(わずら)わしい流れがない霊界は、こんな場合には大層、便利だった。しかも睡眠という生理的な欲求もないから、呼び出したり、行ったり、買ったりするのが即座に出来て重宝なのだ。まあ、それはともかくとして、幽霊平林は霊界番人を呼び出そうとした。方法は以前、やっているから、同じ方法で出来ると踏んだのである。だから当然、如意の筆を手にすると、念じ始めた。そして、幽霊平林が軽く一、二度、如意の筆を振ると、どこからともなく光の筋が射し、幽霊平林の住処(すみか)を向け、光輪が下り来たった。紛(まぎ)れもなく霊界番人様だ…と、幽霊平林はその光輪を見て思った。
『おお! そなたか。また、儂(わし)を呼びおったな。呼ばれるのは別に構わぬが、用もなく呼び出されては困るぞよ! 儂は相変わらず忙しいでな。…して、今度(こたび)は、いかがした?』
霊界番人の荘厳な声が響いた。
『はい。実は僕、いや、この私めと、上司である上山の二人で、番人様が仰せになった社会悪をなくそうと、日々、努力していたのでございますが、今現在、つまらないことで壁に突き当っておるのでございます』
『…そなたが云っておることは、大よそ見当がつく。社会悪をなくせ、とは申したが、それは飽くまでも霊界司様のお云いつけを儂(わし)がそなたに伝えただけなのじゃ。儂個人としては、余りに漠然としておる故、そなたらが孰(いず)れ限界に至るであろうことは疾(と)うに分かっておったわ。で、詳しく申さば、どのようなことに突き当って悩みおるのじゃ?』
霊界番人の言葉は、いっそう荘厳さを増した。
『と、云われますと、なにか手立てがあると?』
『あることはある。が、細やかなことまでは霊界の決めで云えぬ。それは、そなたと上司の考えることじゃからのう。ひとつ云えるとすれば、人は武力では食えぬ、ということじゃ』