幽霊パッション 第三章 水本爽涼
第十二回
「おお君か! もう来るだろうと思ってな。まだ六時半だから、今日はゆっくりしてるよ」
上山はそう云って、ミルクの入ったマグカップを、ひと口、啜(すす)った。
『あの…、もういいんでしょうか?』
恐る恐る、幽霊平林は訊(たず)ねた。
「ははは…、そんなに気を使わなくたっていいよ。云ってくれ」
『はい、それじゃ。寝室で話した続きなんですが、人は武力では食べられない、と霊界番人様が仰せのところでしたね』
「ああ、そうだったな。じゃあ、すべてのCO2排出物を止める前に、というより、そういうことより先に何をすりゃいいんだ? ってことになる」
『はあ…。それを課長と考えないと、と僕には思えたんですよ』
「だろうな…。話が抽象的過ぎだからなあ」
「はい…」
二人は溜息(ためいき)をついた。
『独裁者連中の発想転換でいきましょう!』
急に明るい声を出し、幽霊平林が陰気に云い放った。
「んっ?! どういうことだ?」
『だから、僕が調べた霊界万(よろず)集に載っていた独裁的国家の指導者連中二十名ほどへの念力ですよ』
「その二十ほどの独裁国家のトップを洗脳するってことか?」
『洗脳? じゃあないんですが、まあ、結論は、そういうことです。彼等の発想を変えさせるんですよ、如意の筆の荘厳な霊力で…』
「出来るんなら、それに越したことはない。是非、やってくれ、君」
『はい。じゃあ、もう一度、それらの独裁国家と思われるリストと指導者をピックアップしましょう。どうします? これからだと、ちょいと無理、でしょうから…』
「そうだな、私は今日、仕事だから、夕方にでもまた、現れてくれ」
上山は腕を見て云った。時計の針は七時前を指していた。